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リノベーションマンション事例「ゲストをもてなすための家。人と人をつなぐフックのある空間」

雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都府中市の飛弾さんの事例をご紹介します。料理上手なシングル男性。趣味を通して集まった大勢の仲間を招き、新しいアイデアや盛んな交流を促す仕掛けを、ふんだんに盛り込んだキッチン。(text_ Yasuko Murata photograph_ Kai Nakamura)

毎日、三食とも自炊をするという、料理男子の飛弾さんは1人暮らし。音楽活動や料理コミュニティの主宰など、多彩な趣味を持ち、大勢の仲間を家に呼んで、得意の料理でもてなす機会が多いという。

リビングのソファからキッチンを見る。自然に会話が生まれる距離感。壁側には吊り戸棚も。

[左]・目線を計算したローソファは、設計者の芦沢啓治さんによるオリジナル。
[右]・広い土間を設けた玄関は、音楽スタジオとしても活用。左側には収納も。

「大きなキッチンとLDKをつくるため、リノベーションをすることにしました。人が集まり新しいアイデアが生まれ、何かが始まる場所にしたかった。そのための工夫をちりばめました」(飛弾さん)

工夫のひとつが、裏側を黒板にした本棚。会話しながらメモを取り、移動させて、他の場所にいる人に見せることができる。少人数のグループに分かれて話しやすいように、テーブル、ローソファ、床座りなどのさまざまな居場所もつくった。

黒板の本棚の内側はワークスペース。ここも居場所のひとつ。

熱帯魚を飼育する水槽は、壁に埋込んだ。手前の黒板が、本棚の背板の裏側となっている。

「造作したローソファは、背もたれに飲み物が置ける台を付けました。後ろを振り返るとテーブルにいる人と会話が始まります。キッチンに立つ人から床に座る人まで、徐々に目線が低くなり、視線が自然に交わる空間を意識しました」(飛弾さん)

キッチンに立って料理をしている人から、隣のテーブルに座っている人、ソファに座っている人へと目線が徐々に低くなり、視線が交わりやすくなっている。

キッチンは飛弾さんの日常的な調理動線を主軸に計画された。LDKの短手の壁いっぱいに、二列のカウンターをつくり、壁側にコンロ、リビング側にシンクを配置。シンク側のカウンターはテーブルと一体型だ。

壁側の収納。奥行があるためコンテナやカゴを活用し、収納を工夫。
シンク下は、食洗機に入らない器具などを乾燥させるトレイを設置。

「パントリーや冷蔵庫から食材を取り出し、洗ったり切ったりして火を入れる。この順番で設備を並べ、それぞれの場所で使用する調理器具をしまう収納をつくったら、このプランになりました」(飛弾さん)

広いキッチンは作業しやすいが、動線が長くなってしまうため、食器は一箇所にまとめず分散して収納。炊飯器の近くに茶碗、コンロの近くに皿など、使う場所に置くようにして、移動する距離が短くなるように工夫しているという。

コンロの正面にパイプハンガーを設置。鍋を吊るしたり、蓋を挟んだりできて便利。

お茶やコーヒーを淹れるコーナー。上の棚に道具、下の棚にカップ類など、分類して収納。

また、ゲストへの気づかいも随所に施している。たとえばカウンター下のゴミ箱を収納できる引出しは、キッチンの内側とリビング側の両方にある。ゲストが空いたボトルや缶を、すぐに片づけられるようにする配慮だ。さらにグラスや酒類のボトルをしまう棚も、カウンターの両側から取り出せる位置に設置している。

酒類はカウンターの両側から出し入れできる。

「缶を片づける、飲み物を取りに来るなどの行動が会話のきっかけになることも多いんです。そういった空間のフックは、知らない人同士が仲良くなれる雰囲気づくりに一役かっていると感じています」(飛弾さん)

キッチンから水まわりへと続き、寝室へと抜けられる回遊動線。メインカラーとして、造作家具などをコバルトブルーで塗装。

[左]・キッチンの壁にIKEAのマグネット付きスパイス入れを貼り付けて。
[右]・鍋つかみなどの細々したものまで、使いやすく計画された収納。

建物データ

飛弾邸〈所在地〉東京都府中市〈居住者家族構成〉大人1人〈建物規模〉地上10階建て(7階部分)〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈建物竣工年〉1981年〈専有面積〉86.25㎡〈バルコニー面積〉19.74㎡〈コーディネート〉EcoDeco〈設計〉芦沢啓治建築設計事務所〈施工〉栄建〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉2ヶ月〈竣工〉2012年

※この記事はLiVES Vol.70に掲載されたものを転載しています。
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