
ヴィンテージマンションリノベーション事例「キッチンと一体化したワークスペースを住まいの中心に」
雑誌「LiVES」に掲載されたマンションリノベーション事例から、今回は東京都目黒区の光本直人さんと濱名直子さんご夫妻の事例をご紹介。12年住んだ築58年の集合住宅をリノベーションした建築家夫妻。間取りの変更や性能面の改善によって、快適なワークスペースを実現。(text_ Kiyo Sato photograph_ Takuya Yamauchi)
- 工事費:1270万円(税・設計料込み)
- 神奈川県横浜市 Sさんの家
- 家族構成:夫30代 妻30代 長女3歳
- 専有面積:80.08㎡ 築年数:20年(2002年築)
設計事務所兼自邸のヴィンテージマンションをリノベーション
建築設計事務所mihadesignを主宰する光本直人さんと濱名直子さん夫妻。目黒区内に建つヴィンテージマンションに家族4人で暮らしている。1963年に竣工した鉄筋コンクリート造の建物は、珍しい正方形の平面と四方に窓がある開放的な造りが特徴だ。2005年の独立を機に設計事務所兼自邸として購入し、DIYでできる範囲の改装を行った。その後、しばらくはダイニング横の一室をオフィスとして使っていたが、手狭になったことから同じ目黒区内にオフィスを移転。当時まだ下の息子さんが小さかったこともあり、濱名さんが自宅でも仕事ができるように作業スペースは残しつつ、自宅とオフィスを往来する働き方を続けてきた。そうした中、3年ほど前に大掛かりなリノベーションを行うことに。



生活に馴染むワークスペース
「表面的な改修しかしていなかったので、古くなった設備機器や性能面での問題が避けられない状態になってきて。下の息子が成長して個室が必要になってきたこともあり、スケルトンにしてすべてを解決することにしました」(光本さん)
間取りは中央にキッチンと対面式のカウンターをつなげた“島”のような場所をつくり、ここを廊下兼家族の共有スペースに。周囲にリビングダイニングと3つの個室を配した。
「子どもが巣立った後は、個室をシェアオフィスやシェアハウスにするなど家族のみに限定しない使い方ができるようにしたいと考えました」(光本さん)
黒皮鉄板で製作したシャープなカウンターは、これまで通り自宅でも仕事ができるようにコーナー部分をワークスペースに充てた。仕事以外にも食事や宿題をするなど多目的に使っており、まさにシェアハウスの共有スペースのようだ。すぐそばには大きな窓があり、奥のダイニングまで視線が抜けるため閉塞感もなく、仕事の合間に家事がスムーズに行えるのもこの間取りの良さでもある。



天井や梁の仕上げを剥がして躯体のコンクリートを露出させた。型枠に杉板を用いた表情豊かなコンクリートに、黒皮鉄板やラワン材のラフな質感がなじんでいる。

変化に柔軟に対応できる住まい
「今でも事務所と自宅を半々ぐらいのペースで行き来しています。朝ご飯をつくりながら施工現場の対応をしたり、子どもが寝静まった夜に作業を進めたり。自宅に専用のスペースがあることで、仕事も支障なく進めることができますね」(濱名さん)
最重要課題でもあった性能面は、漏水トラブルを避けるため、下階の天井裏に横引きされていた給排水管を上げ床にして住戸内に移設。さらに内装を剥がした後のカビだらけの壁を洗浄し、無断熱だった躯体に断熱材を吹き付けた。併せて内装材もすべて一新し、露出させた荒々しいコンクリートの躯体をベースに、木と鉄をミックスして、質感豊かな空間をつくり上げた。
家族構成やライフスタイルの変化によって変わる働き方。そうした変化に柔軟に対応できる住まいが、今まさに求められている。



固定工具のクランプをタオルバーとして代用。
建物データ
〈専有面積〉85.09㎡〈バルコニー面積〉21.82㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1963年〈リノベーション竣工〉2018年〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉4ヶ月〈設計〉ミハデザイン一級建築士事務所〈施工〉ファインアーツ+DIY

※この記事はLiVES Vol.116に掲載されたものを転載しています。
※LiVESは、オンライン書店にてご購入いただけます。amazonで【LiVES】の購入を希望される方はコチラ