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古民家リノベーション事例「築60年の日本家屋を現代の基準に合わせ快適に暮らせる家に」

雑誌「LiVES」に掲載された古民家リノベーション事例から、今回は宮城県岩沼市の洞口さんご家族の事例をご紹介します。壁や筋交いを増やし、耐震補強をしっかり施した築60年の古民家。重い瓦は下ろして、外断熱にすることで、迫力ある梁や野地板を活かす。(text_ Yasuko Murata photograph_ Takuya Furusue)

築60年の古民家を複合住宅としてリノベーション

築60年の木造2階建て。床面積190㎡の大きな古民家をリノベーションした、洞口文人さん、苗子さんご夫妻。長女と祖母の4人家族で、祖母が営む美容室、当初建築家として独立して間もなかった苗子さんの事務所も併設する複合住宅として再生させた。

ガルバリウム鋼板で屋根を葺替え、外観は刷新。手前が祖母の美容室。

「屋根裏に隠れた曲がりくねった立派な梁や野地板を見て、腕のいい棟梁が上質な材料を使って建てた家だと思いました。時代を超えて引き継いでいきたい建物でした」

そう話す洞口さんご夫妻がこだわったのは、古民家の魅力をそのままに健康的に快適に暮らせる家にすること。防水、断熱、耐震などにしっかり予算をかけ、長く住み継いでいけるリノベーションを目指した。

2階は苗子さんが主宰する建築設計事務所「L・P・D architect office」の事務所とセカンドリビング。
美容室のバックヤードを兼ねる祖母専用のキッチン。店舗とは引戸で仕切っている。キッチンの隣に祖母の居室がある。キッチンは別、浴室は共有するタイプの2世帯住宅。

長く住み継いでいける性能を整え、耐震性もアップデート

梁や野地板を活かすため、天井を撤去して現しに。外断熱にするとともに、雨漏りのあった屋根瓦は下ろし防水工事を施し、板金葺きとすることで軽量化を図ることにした。さらに、基礎を打ち直し、壁や筋交いを増量。耐震性を現代の基準に合わせてアップデートし、安心して住み続けることができる建物へと整えた。また、既存の土壁はできるだけ残し、土壁の調湿性・蓄熱性も活かしている。

リビングからダイニングを眺める。キッチンと玄関を仕切る壁の上部は、既存の土壁の中に隠れていた下地の木舞を活かし、通気と採光を高め、空間の心地よさをアップ。
壁の一部は木毛セメント板。断熱性・吸音性もあり、既存の柱や梁とも好相性。戸棚は既存をそのまま流用。

既存の土壁の一部をあえて残し、元の家の痕跡を伝える。

「古民家リノベは見た目のかっこよさに価値を見出す人が多いと思います。でも、寒さを我慢したり健康を損なったりするようでは、長く住めない。価値ある建物を残していくために、性能を整えていくことは大切だと考えています」(文人さん)

リビングと祖母の居室をつなぐ廊下。建具は既存の家で使われていたものを流用。

リビングの壁は古い土壁を削り、漆喰の左官仕上げに。施工はワークショップ形式で。

2階の小屋裏を利用したワークスペース。吹き抜けでLDKとつながる。「手仕事で仕上げた野地板は一枚一枚異なり、プレカットでは出せない味わいがある」(苗子さん)

貴重な地域資源である古民家リノベーションを通して地域を活性化

岩沼市は仙台から在来線で20分ほどの距離にあり、この家と同様の大きな古民家が多く残っているという。洞口さんご夫妻は、これらの古民家を貴重な地域資源ととらえ、有効な使われ方がされるように、今回のリノベーションをモデルケースとして周辺にアピールしていきたいとも考えている。

公園の緑道の一部も整備し、庭と一体化したコモンスペースに。小学生の通学路になっているため、ベンチをつくり、チョークや縄跳びを置き、楽しい寄り道を誘っている。
庭につくったデッキは、映画上映会などイベント開催時にも活用できる。

「敷地が市の都市公園の緑道に面しているため、市と相談して庭と一体化したコモンスペースとして整備しました。また庭にデッキを設け、テーブルをつくって人が集まることができる場所を設けています。今後は、野外映画祭などを開催する予定も。この家を地域に開いた場所として、さまざまな仕掛けを考えていきたいです」(苗子さん)

この地域の若い世代が、洞口さんご夫妻の後に続き、スペックの高い古民家が増えることで、地域としても活性していくことを期待したい。

祖母の居室。縁側の風情を残しながら新たな壁を設け、耐震性を高めている。手前のラックでは、美容室のお客さまや近隣の方へ、輸入雑貨の販売も行っている。

リビングと祖母の居室の間に新たな壁を設け、ゲストルームをつくった。もともとは襖で仕切られていたところに壁を増やすことで、耐震性もアップしている。

建物データ

〈敷地面積〉650㎡〈建築面積〉190.3㎡〈床面積〉1階 187.5㎡、2階 31.5㎡、合計 219㎡〈主要構造〉木造〈用途地域〉第1種住居地域〈設計〉株式会社L・P・D / L・P・D architect office〈施工〉気仙沼工務店〈構造設計〉気仙沼工務店〈設計期間〉5ヶ月 〈工事期間〉6ヶ月〈既存建物竣工〉1957年〈リノベーション竣工〉2016年

※この記事はLiVES Vol.103に掲載されたものを転載しています。
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