住宅ローン完済後の手続きは?抵当権の抹消時には遅延と書類紛失に注意しよう

本記事では、住宅ローンを完済したあとに必要な手続きや手順、書類を紹介します。また、手続きを怠ることによるリスクを解説します。住宅ローンを完済した方やこれから完済を目指す方、またスムーズに不動産取引をおこないたい方にも役に立つ内容です。
記事の目次
住宅ローン完済後の手続きは?

住宅ローンを完済したあとに必要な手続きは、抵当権の抹消と火災保険の質権抹消です。以下、手続きの概要を説明します。
抵当権の抹消
抵当権とは、住宅ローンなどの借入金の担保として設定される権利です。抵当権を設定すると、万が一返済が滞った時には、金融機関が対象の物件を競売にかけて貸し倒れのリスクを防ぎます。
住宅ローンを完済したら、借り手が抵当権を抹消する手続きをとります。物件に抵当権がついているかを調べるには、法務局に問い合わせ登記簿謄本を取得すると確認ができます。
抵当権抹消の手続き案内や必要書類は金融機関からもらいますが、手続き自体は自分でおこなわなければ抹消できません。抵当権抹消には期限がありませんが、金融機関から提供される書類には、3カ月以内に要返送など期限が設けられている場合があります。そのため抵当権抹消の手続きは、書類を受け取ったらすぐ返信するなど迅速にすすめましょう。
なお、期限が切れても手続きができなくなるわけではありません。しかし、その場合は自ら法務局に問い合わせるなどの手間が発生します。もし、抵当権を抹消しないままにしておくと、後章で紹介するいくつかの不都合が生じます。そのため、抵当権の抹消は住宅ローン完済後、速やかにおこないましょう。
火災保険の質権抹消
火災保険の質権設定とは、担保として貸し手が借り手の不動産に設定する権利をいいます。対象の不動産が火災などの損害を受けた場合、保険金がまず貸し手に支払われる仕組みです。もし、火災によって不動産が全焼すると、抵当権があっても実行できなくなってしまいます。しかし、火災保険の質権設定があれば、貸し手が債権を回収できるようになります。保険金の支払いがまず貸し手におこなわれるようにしているのは、貸し倒れのリスクを減らし、ローンを安全に提供するための措置です。
しかし、住宅ローンが完済されると、質権設定は不要になります。通常、火災保険に質権設定があると、住宅ローン完済後に金融機関から「保険証書」と「質権消滅確認請求書」が送付されます。必要事項を記入のうえ、保険会社へ返送すると、新しい保険証券が送られてきます。手続きはこれだけなので、抵当権の抹消手続きよりもかなりシンプルです。質権の設定が解除されると、もし火災などがおこった時の保険金は、自分で受け取れます。
質権の抹消も自動的にされるわけではありませんので、書類を受け取ったら速やかに手続きをすすめましょう。
抵当権を抹消しないデメリットは?

抵当権は、住宅ローンを完済したからといって自動的に抹消されるものではありません。つい、抵当権の抹消を忘れてしまうこともあるかもしれません。しかし、抵当権を抹消せずにそのままにしてしまうと、さまざまなデメリットが生じます。
売却時に不利になる
住宅ローン完済後に抵当権の抹消を怠ると、将来的に売却を考えた時に不利になる可能性があります。抵当権があると、登記簿謄本に表示されるため、住宅ローンを完済していないのではないかとみられてしまいます。抵当権がついていても売却の手続きはとれますが、どうしても買い手がつきにくくなってしまいます。抵当権がないことを示すためにも、住宅ローンを完済したら速やかに抵当権を抹消しておきましょう。
相続時に時間がかかる
抵当権がついたままの不動産を相続した場合、相続人が抵当権の抹消をしなくてはなりません。抵当権がついたままになっていると、相続した人が不動産を売却したり、新たなローンを組みたいと思った時も、抵当権がネックになってしまいます。
抵当権を抹消しようにも、手続きは遺産分割協議が終了するまでできません。抵当権がついたままの物件を誰かが所有するのが確定して初めて、物件の名義を変えて抵当権の抹消手続きに入れます。そのため、抵当権がついたままの場合、相続時の手続きが煩雑になり、相続人の負担が増えてしまいます。
融資を受ける時に不利になる
住宅ローンを完済したにも関わらず抵当権を抹消しないと、不動産の登記簿でローン未完済の扱いを受けます。この状況では、金融機関が個人の信用情報を評価するのにマイナス要素になり、新規の融資を受ける際に不利になります。
抹消書類を紛失した時に手間がかかる
住宅ローンを完済すると、抵当権抹消の書類が提供されます。手続きをせず放置していて、書類の有効期限が切れてしまうと、法務局に出向いて手続きをしなければなりません。さらに、書類をなくしてしまった場合は再発行をしなければなりません。再発行となると手続きが増えるうえ、手数料も必要になってしまいます。手続きをとらないままにしておくと、さまざまなデメリットが生じ手間も増えます。質権がついたまま放置することに何のメリットもないので、住宅ローン完済後は速やかに手続きをしましょう。
抵当権の抹消手続きをする方法は?

抵当権抹消の手続きは、司法書士に依頼する方法と自分でする方法があります。以下、それぞれの方法と目安の費用を紹介します。
司法書士に依頼する場合
抵当権の抹消手続きをおこなう際に、司法書士に依頼する場合の手順は以下です。
- STEP 1抵当権抹消を司法書士に依頼する
- STEP 2委任状の作成する
- STEP 3司法書士が作成した委任状に自身の署名と押印をおこなう
- STEP 4署名と押印が完了した委任状と抹消書類を司法書士に提出する
- STEP 5抹消登記の手続きの実施する
司法書士は提出された委任状と抹消書類をもとに、不動産登記所に抵当権の抹消登記手続きをおこないます。手続きが完了すると、抵当権が不動産の登記簿上から削除されます。抹消登記が完了すると、司法書士は依頼者に抹消が確認できる書類を送付します。これにより、不動産の抵当権が正式に消滅したことが証明されます。
司法書士に手続きを依頼する場合の費用相場は、およそ1万円から1万5,000円です。内訳は、登録免許税と司法書士への報酬です。登録免許税は、不動産の数×1,000円で計算します。もし、土地が1筆と建物が1棟ある場合は、2,000円になります。その費用に司法書士への報酬がプラスされます。
自分で手続きする場合
司法書士に依頼しないで、自分で抵当権の抹消手続きをおこなう場合の手順は以下です。
- STEP 1抹消手続き書類を受領する
- STEP 2管轄の法務局の調査を受ける
- STEP 3抵当権抹消申請書を入手
- STEP 4書類を提出する
取得した申請書と必要な書類を持参し、必要書類や身分証なども含めて法務局に提出します。提出した書類をもとに、法務局で抹消手続きがおこなわれます。手続き完了後、抹消が確認できる書類を受領します。この書類は、法務局で直接受け取るか、または郵送で受け取ることができます。なお、書類に不備がある場合は、法務局から通知がきます。指摘箇所を修正のうえ、再提出しましょう。修正には期間が決められており、期限を過ぎると申請をやり直さなければなりません。期限を超過しないよう注意が必要です。
手続きには以下のような書類が必要です。なお、登記弁証と抵当権解除証書は、紛失しても再発行できないため注意しましょう。
【金融機関から送付される書類】
- 登記済証(もしくは登記識別情報)
- 抵当権解除証書(もしくは登記原因証明情報)
- 金融機関の委任状(登記抹消に立ち会わない時の書類)
- 金融機関などの会社法人等番号がわかるもの
【自分で用意する書類】
- 免許証などの身分証明書
- 認印
- 抵当権抹消登記申請書(法務局のホームページからダウンロードして用意する)
- 登記事項証明書(法務局で取得、もしくは郵送・オンライン交付)
- 登録免許税(収入印紙)
参考:法務局ホームページ
住宅ローン等を完済した方へ(抵当権の登記の抹消手続のご案内)
不動産登記の申請書様式について
自分で抵当権抹消をおこなう場合に必要な費用は、登録免許税だけです。金額は前述のように、不動産の数×1,000円で計算できます。登記事項証明書の取得は通常600円ですが、郵送で受け取る場合は500円、オンラインであれば480円となります。
なお、抵当権の抹消は、必要書類が揃っていてそれ以外に手続きがなければ自分でおこなえますが、専門家に相談しなければならない場合もあります。例えば、物件を売却した資金で住宅ローンの残債を支払う予定だと、さまざまな手続きを同時進行ですすめなければなりません。また、日中に法務局に出向いて手続きをするのが難しい場合もあるでしょう。手続きが煩雑なものを一人で完結するのは難しいので、その場合は司法書士に依頼するほうがスムーズです。
住宅ローン完済後に関してよくある質問
住宅ローン完済後の手続きは?
住宅ローンを完済したあとに必要な手続きは、抵当権の抹消と火災保険の質権末梢です。抵当権は、住宅ローンなどの借入金の担保として設定されていたもので、債務不能になると不動産を差し押さえできる仕組みを指します。抵当権は住宅ローンを完済すると自動的になくなるものではありません。そのうえ、解消の期限もありませんが、抵当権がついたままだとさまざまな不都合が生じてきます。そのため、住宅ローンを完済したら速やかに抹消の手続きをしましょう。
火災保険の質権設定とは、対象の不動産が火災などの損害を受けた場合、保険金がまず貸し手に支払われる仕組みです。住宅ローン完済後は質権設定が不要になるので、こちらも住宅ローン完済後は速やかに解消手続きをしましょう。
抵当権を抹消していない時のデメリットは?
抵当権は、住宅ローンを完済しても自動でなくなるものではありません。抹消するのに期限もないため、手続きをしないで放置してしまうといくつかのデメリットが生じます。抹消しないで放置していると、物件の売却を考えた際に不利になってしまいます。抵当権がついた物件には買い手がつきにくいためです。
さらに、新たな融資を受けたい場合にも不利になるでしょう。抵当権がついた物件を所有しているのは、多重に債務を持っているとみられるためです。また、抵当権がついた物件を相続されることになったら、名義変更などの手続きが終わってからでないと抵当権を抹消できないため、相続人の負担が多くなってしまいます。抵当権抹消を忘れ、手続きするまでに時間が空くと、必要書類を紛失する可能性も高まってしまうでしょう。
抹消書類は紛失すると再発行しなくてはならず、手数料が発生したり取得までに時間がかかる原因になります。総じて、抵当権抹消の手続きを延ばしてメリットになることはないため、住宅ローン完済後は速やかに手続きをするのがおすすめです。
抵当権の抹消手続きをする方法は?
抵当権抹消の手続きは、司法書士に依頼する方法と自分でする方法があります。司法書士に依頼する場合におこなうのは、司法書士探しと、委任状や抵当権抹消書類の作成です。自身の署名と押印をおこない書類を提出したら、抹消登記手続きを実施してもらいましょう。司法書士に手続きを依頼する場合の費用相場は、およそ1万円から1万5,000円です。
自分で手続きする場合は、金融機関から送られてくる抹消書類の受領、管轄の法務局へ問い合わせ、抵当権抹消申請書などの入手をおこないます。書類を作成して提出し、抹消手続きをしましょう。
金融機関から送られてくる書類や、法務局に問い合わせて自分で入手する書類など、手続きに必要な書類はさまざまです。自分で抵当権抹消をおこなう場合に必要な費用は、登録免許税だけで、不動産の数×1,000円で計算できます。加えて、登記事項証明書の取得は通常600円必要です。なお、郵送で受け取る場合は500円、オンラインであれば480円となります。なお、抵当権の抹消は、専門家に相談しなければ手続きが難しい場合もあるので適宜、司法書士に依頼して円滑に進めましょう。
まとめ
本記事では、住宅ローンを完済したあとに必要な手続きや手順、書類、手続きを怠るデメリットを紹介しました。住宅ローン完済後の手続きで特に、抵当権の抹消手続きは重要な手続きです。しかし実際には、遅延や管理不足による書類紛失などのトラブルが起きてしまう場合もあります。抵当権の抹消を怠ると、不動産の売却や再融資などの重要な取引が滞り、不便や損失を招きます。書類を紛失すると、手続き全体が遅延し、追加の費用が発生する可能性があります。
そのため、抵当権の抹消手続きでは、十分な注意を払い計画的に進めるのが重要です。信頼できる専門家や機関のサポートを受けながら、効率的に手続きを進めましょう。
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執筆者
長谷川賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
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