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土砂災害に強い家はどう選ぶ?確認すべきポイントとハザードマップの見方

日本は地震の発生が多く、その他にも洪水や津波、土砂災害などさまざまな自然災害のリスクのある国です。その中でも、近年は集中豪雨が多発しています。これにともない、毎年各地で土砂災害が発生しており、大きな被害におよぶケースが少なくありません。例えば2021年8月、前線に伴う大雨によって広島県や佐賀県、長野県を中心とした地域が土砂災害で大きな被害を受けたことは、記憶に新しいところでしょう。

 

そのため、住まいを選ぶ際には、今後さらにリスクが高まることが予想される土砂災害について知り、災害リスクをできるだけ避けることがとても重要です。本記事では、土砂災害に強い土地や家の選び方についてご紹介します。

「土砂災害警戒区域」とは

土砂災害とは大雨や地震、火山の噴火などによって山や崖が崩れたり、崩れた土砂が雨水や河川の水と混ざって流れたりすることで、人命が奪われたり建物が倒壊したりする自然災害のことです。主な土砂災害には「土石流」「がけ崩れ」「地すべり」などがあります。
土砂災害の可能性があると予想される地域は、「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」に指定されています。そのため、これから住まいを探すなら、その場所がこれら地域に該当しないか事前に確認しておくことが必要です。

土砂災害警戒区域(イエローゾーン)

土砂災害が発生した際に住民の生命や身体に危害が及ぶおそれのあるエリアは、土砂災害防止法に基づいて土砂災害警戒区域に指定されています。なお、この地域は「イエローゾーン」とも呼ばれます。
土砂災害警戒区域に指定されると、市町村は警戒区域ごとに警戒避難体制に関する事項を定めなくてはなりません。また、災害が起きた際に要援護者を円滑に避難させるため、土砂災害に関する情報などの伝達方法を定めます。

他にも、市町村は危険箇所や避難場所をはじめ、警戒避難に欠かせない情報を印刷物として住民に提供する必要があります。そして宅地や建物を売買する際、宅地建物取引業者はその場所が土砂災害警戒区域であることを説明しなくてはいけません。

土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は、より危険

土砂災害警戒区域のほかに、土砂災害防止法では土砂災害特別警戒区域が指定されています。これは土砂災害が発生した際、建物が損壊したり住んでいる方の生命に影響がおよぶ恐れがあるとして指定されるエリアです。危険性は土砂災害警戒区域より高いとされ、「レッドゾーン」とも呼ばれます。

土砂災害特別警戒区域に指定された場合、宅地分譲や災害時要支援者関連施設の建築を目的に開発をおこなうには県知事の許可が必要です。さらに建築物の構造も規制が設けられ、土石の力に耐えられる構造でないと建築することができません。したがって、居室のある建築物(住宅や事務所など)を建築する際には、土砂災害に対応するための措置(防護壁や擁壁など)が建築基準法施行令で規定されています。

また、特に危険が迫っている場合には、都道府県知事が区域外への移転等を勧告することもあります。そして宅地建物取引業者は宅地や建物を売買する際、特別警戒区域であることを説明する義務があります。

土砂災害危険個所と呼ばれる箇所も

国土交通省の調査要領・点検要領によって都道府県が調査を実施し、その結果として判明した土石流や地すべり、急傾斜地の崩壊が発生する恐れのある箇所が土砂災害危険個所です。なお、土砂災害危険個所には「土石流危険渓流箇所」「地すべり危険箇所」「急傾斜地崩壊危険箇所」の3つがあります。目的としては、調査結果を周知することで自主避難を判断する、あるいは市町村がおこなう警戒避難体制の確立に役立てることです。

土砂災害危険箇所になったといっても、それだけで法的な規制はありません。この点は、前述した「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」と異なります。しかしこれらの区域を対象として、法的な規制のある区域の指定を順次進めているケースは少なくありません。

土砂災害警戒区域から解除されることも、指定されることもある

対策工事をおこなったり盛土や切土等による地形の変化などの要因で土砂災害の危険性が低減された場合、土砂災害警戒区域等は範囲を変更したり指定が解除されたりすることがあります。指定解除に向けた対策工事の実施は、特定開発行為や建築物の構造規制等にかかわる重要な事項になるでしょう。
一方、過去に土砂災害が発生していないからといって、今後も発生しないとは限りません。調査結果によっては、家を建てた後にその土地が土砂災害警戒区域等に指定されてしまうこともあるので注意が必要です。

ハザードマップを確認しよう

自宅周辺で発生しうる自然災害の種類や程度、そして近くの避難場所や避難経路を事前に把握しておくことで防災意識が高まり、災害へ備えられるようになります。
ここからは、ハザードマップの役割やハザードマップを確認する方法をご紹介します。

ハザードマップとは

国土交通省はハザードマップについて、一般的に「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用することを目的とし、被災想定区域や避難場所、避難経路などの防災関係施設の位置を表示した地図」としています。
台風や地震だけでなく、洪水や高潮、土砂災害などの災害別でハザードマップが用意されています。

具体的な目的は、洪水・津波・土砂災害などの被害を最小限にとどめることです。そのため、ハザードマップでは自然災害の被害履歴に基づいて被害が予想される区域や避難場所、避難経路などの情報を、誰が見てもわかるよう地図上に表しています。

近年、自然災害の増加や少子高齢化などが顕著となり、被災時に配慮が必要な高齢者が増えています。このことを考えると、普段から高い防災意識が欠かせません。ハザードマップを活用して自分が住んでいる地域の自然災害リスクを把握し、適切な避難ルートを事前に確認しておくことが大切です。

▼参照:国土交通省 国土地理院
https://www.gsi.go.jp/hokkaido/bousai-hazard-hazard.htm

ハザードマップはどこで見られる?

ハザードマップにはさまざまな種類がありますが、必要に応じて使い分けることが重要です。まだ見たことがない方のために、ハザードマップがどこで見られるのかをご紹介します。

自治体の窓口やホームページ

基本的にハザードマップは、各地方自治体の窓口やホームページで確認できます。この場合、「市町村名+ハザードマップ」でインターネット検索すれば、該当する地域の情報が見つかるでしょう。また、各市町村の役場で配布していることも多いので、自治体の窓口に問い合わせてみてください。

国土交通省のハザードマップポータルサイト

国土交通省のハザードマップポータルサイトとは、全国の災害時の危険箇所や避難場所、避難ルートなどの情報を入手することができるサイトです。「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」に分かれており、自分の知りたい情報にあわせて使い分けられます。

「重ねるハザードマップ」では洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどを、地図や写真に自由に重ねて表示できます。そのため、災害が起きた際にどのエリアが危険なのか、災害によってどんなリスクが考えられるのかがわかります。また、どのルートを使って避難すれば良いのかも一目でわかります。これに対して「わがまちハザードマップ」は、全国の市町村が作成したハザードマップへリンクでき、地域ごとさまざまな種類のハザードマップの閲覧ができるものです。

▼参考:ハザードマップポータルサイト
https://disaportal.gsi.go.jp/

重要事項説明

不動産の売買や賃貸借といった取引をおこなう際、不動産会社などは取引に関する重要事項説明をおこなわなければならないと宅建業法で定められています。これについて国土交通省は2020年7月、地方自治体が作成した水害ハザードマップにおける対象物件の所在地に関する説明を追加で義務付けると告知しました。そして8月28日から、不動産取引において水害ハザードマップを用いた対象物件の水害リスクに関する説明が義務化されています。

ハザードマップでわかること

ハザードマップを活用すれば、洪水や土砂災害、津波などの自然災害が発生した際、予想される被害の大きさや範囲をあらかじめ知ることができます。自宅周辺はもちろん、通勤・通学に使用したり買い物など日常生活で頻繁に使用したりするエリアも、事前に災害リスクを調べておくとよいでしょう。

災害リスクがわかったら、指定緊急避難場所や避難ルートもチェックしておきましょう。さらに避難ルートが決まったら、通行規制で避難ルートが使えなくなる可能性がないかも確認しておきましょう。なお、立体交差のアンダーパスや周囲より標高が低い道路は冠水しやすいため、大雨・台風時は通行できなくなる可能性があることに注意が必要です。

災害に強い家の造りとは

たとえ災害リスクの少ない土地に建つ家であっても、構造的に弱い家だと地震や台風、洪水などで大きなダメージを受けてしまいかねません。そこで土地選びとともに、災害に強い家づくり(家選び)が重要です。

住宅の構造は基本的に木造と鉄骨造、鉄筋コンクリート造の3つに分けられます。災害に強いもっとも丈夫な家となると、誰もが鉄筋コンクリート造の住宅をイメージするでしょう。実際に台風が直撃することが多い沖縄県では、鉄筋コンクリート造の家がもっとも多く見られます。また、鉄筋コンクリートの家は重量があることで、津波で流されることがなく土砂災害にも強いといえます。

しかし、鉄筋コンクリート造の住宅は建築費も高額になってしまうため、木造住宅を選択する方がほとんどでしょう。同じ木造2階建ての住宅であっても、できるだけシンプルな形状の家の方が丈夫な家になります。
例えば凹凸のある複雑な形状の家よりも、平面が正方形に近い総2階建て住宅の方が強度は高くなります。また、屋根は重い瓦ではなく軽量な屋根材を選んだ方が、階下への負担が少なくなるので耐震上有利です。

たとえ家を建てる際に建築基準法をクリアしていても、建築基準法はあくまでも「最低限の基準」です。そのため、決して安心とはいえないことを覚えておくことが大切です。

災害リスクを知り、安心安全な住まい探しをしよう

近年は温暖化が進み、台風や豪雨による風水害リスクが高まっているという推計もあります。さらに、地震や津波による大きな被害も時々発生しています。
こうした中、不動産会社などが不動産取引をおこなう際には水害リスクに関する説明が義務付けられ、ハザードマップを活用するようになっています。

どんなエリアや家でも、災害リスクは決してゼロではありません。そのため、災害リスクを理解し、少しでもリスクの高い場所を避けて安心安全な住まいを探すことが大切です。そして、災害はいつ起こるかわかりません。万が一に備え、常に自治体の災害対策を確認しておきましょう。

2016年4月1日から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(被災ローン減免制度)の運用が開始されました。これより、もし自然災害によって住宅ローンなど債務の返済ができなくなった場合、被災ローン減免制度が利用できます。これは、ローンなどの債務について、免除・減額を申し出ることができるものです。被災してしまった場合はまず、借入残高のもっとも多い金融機関に相談してみるとよいでしょう。

まとめ

土砂災害に強い土地や家を探すなら、まず自然災害のリスクをチェックしましょう。ハザードマップを参考に、希望エリアの中でリスクの少ない土地を選ぶことがポイントです。土地選びにおいて、生活環境や交通の利便性はとても重要です。しかしこうした利便性を優先した結果、家を建てた後で危険性が高いとわかっても、簡単には転居できません。家族が安心して長く暮らしていけるよう、災害リスクの少ない土地選びを重視してください。

亀田 融

執筆者

亀田 融

タクトホームコンサルティングサービス代表。東証一部上場企業グループの建設・住宅部門で約33年間、現場監督(注文住宅、賃貸マンション、官庁工事)及び住宅リフォーム事業の責任者として従事。2015年10月にタクトホームコンサルティングサービス設立。現在は代表として住宅診断・建物調査を通じて、満足度の高い住宅の購入やリフォームをおこなうためのパートナーとして日々活動している。一級建築施工管理技士、宅地建物取引士、マンション管理士、JSHI公認ホームインスペクター資格を保有。

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