川や海に近い家って大丈夫? 水害に強い家づくりと水害対策
近年、集中豪雨による水害被害に関するニュースを頻繁に目にするようになりました。気象庁の観測データによると、1日の降水量が200mm以上の大雨を観測した日数は1901年からの30年間と直近の30年間を比べて、約1.6倍に増加しており、大きな災害をもたらす大雨の発生頻度が増えていることがわかります。
降水量が増加している背景の一つとされるのが、地球温暖化の影響です。気象庁は、このままの状態が続けば今世紀末には大雨やゲリラ豪雨の発生頻度が約20倍以上になると予測しています。また、台風の影響で2019年10月に発生した神奈川県武蔵小杉駅周辺の内水氾濫では、タワーマンションの一部で大きな被害が発生しました。つまり、国内のどこにいても水害に遭う危険性があるといえます。
このような理由から、これから家を新築したり中古住宅を購入したりする際には、浸水や洪水などの水害に対する安全性を考慮して対策を十分に立てておくことが不可欠です。もし水害に遭って住宅が床上浸水してしまった場合には、床を貼り換えたり住宅設備機器や断熱材を入れ替えたりする必要が生じます。そうした復旧工事には、数百万円の費用がかかってしまうことにもなりかねません。
そこでこの記事では、水害に強い家を建てる、または探す際に注意すべきことについて詳しく解説します。
記事の目次
水害のリスクとは?
「水害」とは、大雨や台風などの多量の降雨によって引き起こされる災害の総称です。洪水や浸水、冠水、土石流、がけ崩れなどが含まれます。
かつて水害といえば、洪水による「外水氾濫(河川が氾濫するなどして市街地に水が流れ込む現象)」を連想する人がほとんどでした。しかし、近年は局所的な豪雨の発生が増加しており、コンクリートやアスファルトに覆われた雨水の浸水能力が低い、都市部を中心とする「内水氾濫(大量の雨などで排水がしきれず市街地が水に浸かること)」も数多く発生しています。なお、水害リスクは一般的に、外水氾濫や内水氾濫等による水害の「発生確率」とその「被害規模」の組み合わせによって表現されます。
洪水浸水想定区域とは? ハザードマップで確認しよう
一般的に海辺や川辺にある土地は、水害の危険性が高いとされて敬遠されがちです。しかし海や川に近いからといって、必ずしも台風や豪雨などの際に浸水してしまうわけではありません。堤防の高さや位置、土地の高さなどの条件によっては、浸水リスクが低いエリアも存在しています。
しかし、隣接地よりも低い土地であったり、海抜の低い土地だったりする場合には、周囲の水が流れ込んでくる可能性が高くなります。そのため、地図情報で標高や海抜などを確認しておくことが大切です。ます最初に、洪水浸水リスクの高い「洪水浸水想定区域」についてご紹介します。
洪水浸水想定区域とは?
洪水浸水想定区域とは河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域であり、市町村が作成する洪水ハザードマップの基本情報となっています。洪水により相当な損害を生じる恐れがあるものとして、国土交通大臣や都道府県知事により指定された区域です。そのため、指定を受けた市町村は洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保するとともに、避難場所等の必要事項を定めて住民に周知することになっています。
なお、水害に関連するハザードマップには「洪水ハザードマップ」のほかに、主に沿岸部で重要になる「高潮ハザードマップ」や内水氾濫を対象とした「内水ハザードマップ」を作成している自治体もあります。新しく住む場所を検討する際にこれらのハザードマップを活用すれば、高潮や内水氾濫の可能性が考えられる地域を避けられるでしょう。また、現在住んでいる地域についても、リスクを知っておけば事前に対策を考えられるほか、万が一の際に避難等もスムーズにおこなえます。
洪水浸水想定区域を確認するには?
洪水浸水想定区域は、前述したようにハザードマップで確認可能です。近年の豪雨でも、ハザードマップで浸水が予測されていた地域で実際に浸水が確認されています。そのため、事前にハザードマップをチェックしておくことが大切です。
ハザードマップはパソコンやスマートフォンからも閲覧することができます。各市町村や国土交通省が運営している「ハザードマップポータルサイト 」で確認できるので、必ずチェックしておきましょう。
ハザードマップでは、どの河川が氾濫したらどのエリアが浸水する可能性があるのか、過去にどこで大きな被害が発生したことがあるのかなどを調べることができます。ハザードマップを見る際は被害の確認に加え、ハザードマップでどこにどんな避難場所があるのか、避難場所への避難ルートなども併せて確認しておくと良いでしょう。
避難ルートを事前に確認しておいても、実際に災害が発生したら通行規制で通ることができないといったリスクもあります。これを回避するために、どのような災害でどのルートが通行規制になる可能性があるのかも把握することもできます。
水害に強い家をつくるために、建築前にできる対策
近年はリバーサイドやウォーターフロントと呼ばれる、川沿いや海沿いの都市開発が盛んにおこなわれるようになっています。都会に住んでいながら自然を身近に感じることができ、眺望や風通しの良さなどが人気を集めているようです。
しかし、水害の恐れのある地域だった場合には、水害リスクを軽減するための適切な対策をおこなうことが不可欠となります。そこで、国土交通省が推奨する4つの水害対策を詳しくご紹介しましょう。
国土交通省が推奨する4つの水害対策
国土交通省が推奨する水害対策には、「かさ上げ(盛り土)」「高床」「囲む」「建物防水」の4つがあります。1つずつ解説しますので、チェックしてみてください。
かさ上げ
盛り土をして周囲よりも敷地全体を高くすることで、敷地内に水が侵入するのを防ぐ方法です。敷地周囲には鉄筋コンクリート造の擁壁などを設けて、土留めをおこないます。しかし、開発申請をしたり、建物の絶対高さの制限などを考慮したりする必要が生じるので、実施するためには総合的・専門的な判断が求められます。
【かさ上げ(盛り土) : 敷地全体を高くする】
高床
基礎を高くして1階の床面を高くしたり、1階部分をピロティ状の空間としてガレージ等に利用し、2階に生活空間となる主要な居室を配置したりする方法です。これらの方法で想定される水位よりも床の位置を高くすれば、居室の床の浸水を防ぐことが可能です。たびたび浸水被害に見舞われる東南アジアでよく見られる構造で、浸水被害対策と同時に湿気対策にも有効な方法。なお、国内においても、古くから高床式の倉庫の事例があります。
【高床 : 家の基礎を高くする】
囲む
「囲む」とは「水防ライン」を設定して建物を守るという考え方によるものです。「水防ライン」は、浸水を防止することを目的として設定するラインのこと。対象建築物などを囲むようにラインを設定し、ライン上すべての浸水経路に防水性の高い塀や止水板などを設置することで浸水を防ぎます。この方法は、既存住宅でも他の方法と比べて容易にできる点がメリットです。
しかし、よほど塀の基礎を地中に深く入れて頑丈に作らない限り、水が押し寄せてきたら水圧で倒壊してしまう恐れがあります。そのため、塀の強度や費用対効果の面を十分に考慮した上で、採用の可否を決めることが必要です。
【囲む : 断水性の塀で家を囲む】
建物防水
1階部分の外壁を鉄筋コンクリート造の建物にしたり、外壁に防水塗料を塗布して防水性を高めたりする方法で、外壁を防水することにより建物内への水の侵入を防ぐことが可能です。さらに玄関やサッシなどの開口部には、止水板を設置できるようにしておきます。また、建物が浮力で浮き上がらないようにするために、基礎との接合部を強化することも重要です。
【建物防水 : 断水性のある外壁にする】
水害に強い家づくりの工夫
国土交通省が推奨する水害対策以外にも、水害に強い家づくりに有効な手法があります。ここで、それらの手法をご紹介しましょう。
キッチンやリビングの設置位置を2階にする
キッチンや水回りの設備、滞在する時間が多いリビングは2階に置きましょう。もし1階が浸水してしまうことになったとしても、その後の生活への支障を最低限に抑えられます。
分電盤を分ける
分電盤を分けることも重要です。電気系統の設備が水に浸かってしまうと、漏電して電気が使えなくなってしまいます。もし1階と2階の分電盤(ブレーカー)をあらかじめ分けて設置しておくことで、1階が浸水によりショートしてしまった場合も2階の電気を使用することができます。
エアコンの室外機を高い位置に設置する
エアコンの室外機は、想定される水位より高い位置に設置しておきましょう。これにより、水害時にエアコンが使えなくなる可能性を低くできます。また、給湯器や太陽光発電のパワーコンディショナー、蓄電池、外部コンセントなどについても同様のことがいえます。
そのほか、「フロート弁付き床下換気口」や増水しても逆流しない排水管の「逆流防止弁」の設置など、住宅メーカーによりさまざまな止水対策があります。
備えておこう!すぐにできる5つの水害対策
ここまで取り上げた対策を講じ、水害に強い家づくりを目指すことで浸水リスクを回避できるようになります。ただし住宅購入の予算によっては、こうした対策をおこなうことが難しい場合もあるでしょう。そこで、比較的低コストかつ、いざというときにできる住まいの浸水対策をまとめてみました。
土のう
浸水発生時には、土のうを使って周囲から家屋内へ雨水が侵入するのを抑えることができます。設置は比較的容易におこなうことができるとともに、土のう袋はホームセンターや通販などで入手可能です。市町村によっては、誰でも自由に土のうを取り出すことができる「土のうステーション」が設置されていることがあります(東京都江戸川区 等)。
簡易水のうと段ボール
土のうがなくても、40リットル程度入るゴミ袋を二重にして中に半分程度の水を入れ、土のうの代わりに使用することができます。こうした簡易水のうを隙間なく詰めることで、浸水を軽減することが可能です。また、作成した水のうを段ボール箱に詰め、レジャーシートなどで包むと強度が増します。
ポリタンクとレジャーシート
10~20リットル程度のポリタンクに水を入れ、レジャーシートなどで包めば玄関などの出入り口の止水に使用することができます。
簡易止水板
テーブルやボードなどの板材で玄関などの出入り口をふさぎ、両端を土のうや水のうで固定します。これによって簡易止水板とすることができ、浸水を防ぐことが可能です。
吸水性土のう
吸水性土のうは土の代わりに吸水剤を使用しているため、水を吸う前は軽量でコンパクトです。しかし水を吸収すると、膨張して立派な土のうとして機能します。軽量なので一度に複数の土のうを持ち運びすることができ、保管や備蓄しておくにも場所を選びません。吸水性土のうは、ホームセンターや通販などで購入することができます。
まとめ
近年は地球温暖化やヒートアイランド現象による影響で、川や海に近い家の水害被害だけでなく、市街地や住宅地に降った雨の排水が間に合わないために発生する内水氾濫も大きな問題となっています。近年では大手ハウスメーカーをはじめとして、さまざまな住宅会社が住宅の「浸水対策」に積極的に取り組むようになっています。これから家を建てたり住宅を購入したりする場合には、水害のリスクや水害に対する正しい知識を身に付け、水害に強い家の取得を心掛けましょう。
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