テーマ:一人暮らし

想い綴る日々

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 「痛ッ!」
何かが落ちてきておでこに鋭い痛みが走った。おでこをさすりながら、その何かを拾い上げてみるとそれは写真だった。写真には今はもう取り壊されたというアパートと、一人の女性が写っている。その女性はおそらく面影から見るにおばあちゃんの様だ。おばあちゃんはとても素敵な笑顔で、すごくいい写真だった。こんな写真どこに挟まってたんだろう。ページを改めてパラパラめくり直してみると、真ん中よりちょっと後、日記として最後の日の横に写真の大きさ分だけ紙の変色の度合いが違う部分があった。そこにはもう粘着力の無くなったセロテープの破片もついていて、間違いなくこのページに写真は張り付いていたようだった。隣のページにはこのノートには珍しいほど長い日記が書いてある。私はそれを読み始めてしまっていた。

83/3/16
ここでの暮らしも今日で最後になるだろうか。大学には休学届を出したが、戻ってこられるかどうかはまだわからない。山本先輩や明美さん、ほかにも色々と面倒を見てくれた仲間たちには本当に感謝している。実家に戻りしばらくお袋と一緒に暮らすと決めた時も皆、別れを惜しんでくれた。正直自分も大分名残惜しい。しかし皆とは必ずまた会おうと誓い合った。この暮らしで手に入れたかけがえのない財産だと思う。

そして春江さん、あなたからは色々と大切なことを教わりました。日記をつけるという習慣は、これからも続けていくことでしょう。そして、あの病室であなたが自分にかけてくれた言葉は忘れません。いいことも不幸なことも起きてしまったことは、日記に綴ればそれはただ過去の日々、その日々を通してあなたがどう生きていくかが重要なのだ、そう言ってくれましたね。今、最後の日記をつけるにあたり、すべてを読み返してみました。我ながら味気のない内容ではありますが、この短い期間でも様々な想いがあったものだと、噛みしめております。そして、読んでいて気づいたことが一つあります。それは春江さんあなたへの

これ以上書くのはやめておこう。自分の気持ちが昂っているのがわかる。これは手紙ではない、日記なのだ。

この日記を、春江さんに預けてここを去ろうと思う。春江さんの人柄を考えると、なんと言って預けたとしても、中身を勝手に見てしまうことはないだろう。それでも自分がここに居た証明を、ここで感じた想いを、春江さんのそばに残しておきたい。春江さんは大切にしてくれるだろうか。

想い綴る日々

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