テーマ:一人暮らし

想い綴る日々

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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82/12/4
部屋から持ってきてもらった勉強道具の中にこの日記が紛れ込んでいた。まさか部屋中の本をほとんど持ってきてくれるとは思わなかった。ありがたいことだが、さすがにかさばっていてしょうがない。病院にも迷惑がかかるので、申し訳ないが明日半分は戻してもらおう。今はとても日記を書くような気分ではないのだけれど、このノートを見つけると何気なく書き始めてしまった。いつのまにかそれだけ習慣になっていたようだ。気を紛らわせるのにはちょうどいいかもしれない。
今のところ足に感覚はない。
82/12/18
左足は完全に元のように動くことはないようだ。訓練を重ねれば補助なしでも歩けるようにはなるらしい。しかし、それでも完全に元通りというわけには程遠いようだ。流石にショックだった。だがそれと同じくらい、お袋に心配を掛けたことを後悔している。見舞いに来たお袋は泣いていて、それが辛かった。事故で死んだ親父のことを思い出したに違いない。本当に悪いことをしたと思う。
82/12/22
現場監督が見舞いに来て、何度も頭を下げられた。こちらに落ち度のない事故だったということで保険金が下りるとのことだったが、それ以外もできる限りのことをすると言っていた。元々面倒見の良い人だったが責任を感じているようで、その姿に恨み言を言ってやることもできなかった。その後、入れ替わるようにして春江さんが来てくれた。着替えなどを持ってきてくれたうえ、部屋の掃除までしてくれたらしい。お袋が一旦実家に帰っている今、本当に春江さんには世話をかけてしまっている。つい堪えきれずに、自分の中の行き場のない思いを口にしてしまった。春江さんは全部吐き出した方がいい、そう言って自分の話を黙って聞いてくれていた。正直自分でも驚くほど色々な感情が溢れ出たと思う。不安や恐怖、悲しみ、恥ずかしながら涙まで流してしまった。話し終えた後は、春江さんに申し訳なく思ったが、幾分気持ちが軽くなった気がする。そしてその後、春江さんが言ってくれたことを一生忘れることはないだろう。


 思い寄らない事態に私は一度ノートを閉じた。ノートを読んでしまったことへの罪悪感がすごい勢いで込みあげてくる。私はおばあちゃんの思い出の品を段ボールに詰め、その中にノートもいれると段ボールを抱えておばあちゃんの家を飛び出した。




 「……あのさ、おばあちゃんのアパートに住んでいた人たちの事って憶えてる?」

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