テーマ:お隣さん

厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば

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「うえっ、まじすか。それやばくないっすか?」
「ほんと、厄年だよ」
 厄年で済む問題なのか。と後輩は特に思ったりはしなかったが、ヤクザだとか、殺しただとか、急に物騒な言葉を聞いたため、あまり状況を飲み込めないまま、厄年やばいな、という感想を持っただけであった。厄年、やべえっすね、と言うと、先輩は満足げに、だろ、三宅も来年?だっけ、再来年だっけ? 気を付けた方がいいよ、まじで。と先輩面で言い、そのまま話を続ける。
「しかもさ、やばいのがな、俺が殺しちゃったヤクザがどうやらどっかの組長の次男かなんかだったらしくて。で、俺ね、そこでも厄年止まんなくて。多分そいつの部屋に免許証落としてきたっぽくてさ、ヤクザに顔も割れちゃってんだよ。さすがにここまで来たら自分でも驚くわ、この厄年加減、すごいと思う。そんで今そこの組員たちが血眼になって俺のこと探してるらしいんだよ。三宅もさ、見たでしょ? 夜勤で働いてるときに、なんか柄の悪いスーツ着た兄ちゃんたちが、おでん売り場の前で俺の事じろじろ見て、そのまま何も買わずに帰ってったの」
「え、あの人たち、カズさん探してるヤクザだったんすか?」
「うんそう、多分俺、近いうち殺されるわ。だから家帰ったらすぐ荷物まとめて、実家帰ろうと思ってんだよ。ほんとまいっちゃうよな、厄年」
「いや、カズさんそんな悠長なこと言ってないで早く逃げた方がいいっすよ、まじ。笑えないっすよ」と、焦った様子の後輩に、にやにやと満面の笑みの先輩。っていうのはさ、全部俺の想像でさ。え?
「だから、全部俺の想像だって話よ」
「え、じゃあ全部嘘ってことですか、ヤクザ殺したのも」
「そりゃそうだろ。俺がそんな恐ろしいことするかよ」
 うわあー、なんだ、と胸を撫で下ろし安堵した様子の後輩、「じゃああの、男とやったってのも、嘘ですか」
「ああ、あれ。いや、あれは本当」
「げっ。カズさん、やべえっすね。見境ねえ」
「見境ねえこたねえよ、ジェンダーだよ」
「なんすかそれ」
「知らねえのか、ジェンダー。まあ仕方ねえってことだよ、厄年なんだから」
「ジェンダーって可愛いんですか、エロいんすか」
 後輩は、先輩が男とやったことになぜそこまで興味が湧くのか、分からぬが、どうしても気になるようで、もっとその話について詳しく聞きたそうにしているのだが、あいにく二人の帰り道はここの交差点で二つに分かれる。
「じゃ、俺帰り向こうだから。おつかれさん」

厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば

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