テーマ:お隣さん

厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

「えー、ひどい。なんで盗まれちゃったんですか」
「いやあさ、席座ってすぐ思いきり寝ちゃって。目覚ましたときにはもう終点でさ、横見たら俺の鞄がなぜか開いてるの。おかしいなって思って中見たら案の定財布がなくなってたわ。五万ね。それも今年入ってから二回。まったく同じシチュエーションで財布盗まれたよ。そんときも五万」
 ええ、という顔をして口をひん曲げ驚く後輩、それは厄年っすね。だろ?と言って先輩は続ける。
「あ、でさ、三宅。ちょっと手、出してみ」
 なんでですか、と不信がりながら後輩は手を出し、先輩がそれに手を近づけると、パチと音が鳴った。「痛っ。なんすかこれ」
「静電気」
と言われ、静電気、と後輩は心の中で呟き、ああ静電気か、と一時納得するが、いや、静電気がなんだと言うのだ。え、静電気ってなんすか?
「ああ、静電気? いや、なんかさ、厄年になってから、俺もよく分かんねえんだけど静電気止まんないんだよ。痛えよな」
「へぇーっ、そんなんあるんすね。厄年、やばいっすね」
「やばいだろ。ほら」
「痛っ。やめてくださいよ、静電気で遊ぶの」
「わりいわりい。でもこれが困ったもんで。この前クラブ行ったときも隣にいた女の子と静電気パチパチ止まんなくなって、何回か、あ、すんません。いえいえ。みたいなやり取りがあってそんでそのまま女の子といい感じになってホテル行くことになってさ」
「うわ、え、本当に厄年っすか、それ?」
「うん。んでいざ服脱がしてわちゃわちゃしようかってやり始めて、パンツ脱がすだろ。そしたらそいつ、男だったんだよ。ついちゃってんの」
「うわあ、厄年っすね」
「だろ。新年早々男とやるなんて、厄年としか思えないわ」
「え、やったんすか?」
 うん、と何食わぬ顔で答える先輩に驚き、男とやっている先輩を、天を仰ぎながら想像してみる、けれどもやはり男同士で性交をする先輩を想像できない、というか、そもそも相手が女であったとしても、知人の性交などあまり想像はできないので、頭の中で像になりきれなかった先輩が消え、すると現実の中の先輩までが突如後輩の視界から消える。あれ?と驚いて周りを見回す後輩。しかし意外にもあっさりと見つかる先輩。こけていた。うずくまる先輩に、うわ、カズさん、大丈夫っすか?
「ああ、大丈夫。これも厄年だから。しょうがないわ」慣れた様子の先輩は立ち上がり、歩き始めるとすぐ前にある道路標識のポールに気づかず正面から思い切りぶつかり、体ごと後ろに倒れた。げ、カズさん、大丈夫っすか?

厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば

ページ: 1 2 3 4 5 6

この作品を
みんなにシェア

7月期作品のトップへ