テーマ:ご当地物語 / 岩手県大槌町

ペタンクルアーチ

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ああ。
あなたが幼い頃、クジラを助けたことがあるって話。
そんなことあったね。
浜辺に打ち上がった子クジラに、ずっと両手で水をすくってかけてあげてたそうね。
静岡のおばあちゃんちの、人があまり来ない海岸だったからね。
そのクジラは助かったのね。
うん。でも帰りが遅いって大騒ぎになってね。結局、警察まで呼んで。それでぼくが海岸でクジラといるところを発見されて。それからはみんな、ぼくよりクジラのほうにかかりっきりになってさ。パトカーとか消防車とか新聞社とか来て、もうとにかくすごかったよ。
まさにヒーロー誕生ね。
まさか、どんだけ親に怒られたか。そのときは納得いかなかったけど。何がいけないのかわからなかったんだよ。助けることにただ無我夢中になってただけなのにね。うまく自分の言葉で反論できなかったのが余計に悔しくてね。いまはわかるけど、どれだけ心配してたかってことが。そうしたら、そのことが地元の新聞に載っちゃって。それがまたなんでか、その記事が学校の掲示板に張り出されちゃってさ。
うふふ。あっ、そうそう、それでね、その話でわたしね、ピンときたのよ。想像していた理論に答えが見つかったってゆうか。
クジラのことが?
そう。恐らくそのときあなたは超音波を浴びたのよ。イルカの超音波はね、人間のDNAレベルにまで届いて、ある意識を呼び覚ますために特別な作用を及ぼすって言われてるの。クジラだってそうかもしれない。わたしはね、特にそう思うの。イルカにはイルカの存在理由があって、クジラにはクジラの存在理由があるはずだって。
それはもう科学的に証明されてるの?   
ううん、いまはまだ伝承的なものだけど。でもね、いずれわたしがかならず証明するから。   
なるほど。 
わたしがその証拠なんだから。ねえ、キャンパスでよくあなたとすれ違うのって偶然だと思ってる? きょうだって、そう。偶然あなたに会って、誘ったって。ううん。わたしがあなたを見つけたの。わたしはあなたを見つけられるの。まるでソナーのように。感覚でなんとなくわかるのよ、あなたの存在が。そしてそれはきっと、わたしの命題についての答えにつながっているに違いないのよ。
海と人間との豊かな関係? 
おぼえててくれているのね。
ある意味、衝撃的だったからね、あの作文は。
血と肉のところ?
まあ、そうだね。
でもそれは違うと、あなたが実証してくれたのよ。それでね、どうやら彼は、あなたといつも一緒にいたから、わたしのことを好きになってくれたと思うのよね。そう、まるで共振したように。

ペタンクルアーチ

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