テーマ:ご当地物語 / 岩手県大槌町

ペタンクルアーチ

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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クラブからの帰り道、バス停までのあいだの時間、ぼくらはいままででいちばん長い会話をした。そのなかで彼女は本格的にクジラに関しての研究をしたいと語り、その分野では特に充実している大学の名前をひとつあげて、そこを目指しているとぼくに告げた。実のところぼくもその大学に在る学科を目指していると打ち明けると、彼女はじゃあ大学でと言って右手を差し出したので、ぼくも大学でと言って彼女とはじめての握手を交わしたのだった。

キャンパスの近くにあるカフェに午後三時。今日のバイトの有無を構内ですれ違ったときに彼女に聞かれて、ないよと答え、じゃあちょっと話があるからと会う約束をした。
彼女はすでに来ていた。陽ざしのせいか、彼女が微笑むテラス席のほかの席にはだれもいなかった。待たせたかな。そう言ってぼくはううんと首を横にふる彼女のむかいの席に座った。学校帰りの子供たちの笑い声が、テラスを囲む木々に吸い取られるようにふいに途切れて消えていった。ぼくたちはまず、天気のことやら、夏の予定なんかを話していた。やがて彼女にはレモンスカッシュ、ぼくはにはアイスコーヒーが運ばれてきた。
ところで、京大生の寺岡くんは元気?
ああ、あいつ? うん、元気みたいだよ。ついさっきもメール来たし。
何してた?
ものすごい美人のコと、肩並べてピースしてる写真だけ送って来たよ。
それだけ? 何も書いてなくって?
そう。
えー、なにそれー、うそ、なんかめっちゃ腹立つんだけど、なんなのそれー。えっ、恋人? デート中ってこと? ちょっと電話して確かめてみない? どうゆうことなのよそれー。
彼女はびっくりするほどうれしそうにはしゃいだ。
えっ、あいつとなにかあったの?
まあ、そうなのよ。それをいまから説明するからよかったら聞いてくれる?
もちろん。
高二の夏休みの終わりくらいの頃にね、彼から一度どうしても会ってほしいって、辻堂の駅前に呼び出されたことがあってね。彼が転校する少し前あたりだったと思うけど。
へえ~。
それから、テラスモールのカフェに入ったのね。
うん。
いつもと違って、彼ね、なかなか話さないから、わたしあなたのことならと思って聞いてみたの。わたしが知ってる中学校より前の、知らない頃の話なんかをね。
ほう。
幼なじみだったから、あなたと彼。
嫌な予感がするけど。
だいじょうぶよ。
ならいいけど。
そしたら、あなたのことなら彼、楽しそうに話しはじめてくれて。
ははっ。
そしたらね、そうそう、そう言えばって、クジラの話になってね。  

ペタンクルアーチ

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