テーマ:ご当地物語 / 鳥取県鳥取市

あのころを追い越すまで

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「ごめんなさいね。引き留めちゃって。キミ、中学生?」
「中学一年です。見えませんよね」
「いえいえ。そんなこと無いわよ。まあ、男の子には見えないけど。あ、その浴衣は、誰かから借りたの」
「姉からです。姉ちゃんも、あんまり大きくないですから」
「ふうん。家族はみんな小柄な人?」
「いえ。オヤジは大きいです。だから、まあ、希望はある」
 希望はある、か。その言い方に、不思議と笑みがこぼれてしまう。それに、男の子ならば、いつ伸び始めてもおかしくはない。確か自分が高校生の時は、入学してから卒業するまでに三十センチ身長が延びた男の子もいた気がする。彼はバスケ部だったので、最後の大会ではスタメンとして活躍したはずだった。私も小学校のころからバスケを続けてきたのだが、この小柄な身長と選手としての才能の限界を感じてしまい、高校一年で辞めてしまった。
 懐かしい。あの頃も、すでに十年前か。十、という数字の大きさに、私はまたため息を吐いた。
「お姉さんは、その、高校生ですか」
「あらうれしい。でもそれ、身長だけ見て判断してるでしょ」
「え、いや、その。ということは、もう大人ですか」
「そうね。お酒を飲んでもたばこを吸っても捕まらないわ」
「たばこ吸うんですか?」
「吸わないわよ。臭いが嫌い。ところで、バツゲームって言ったけど、何をしたの」
「中間テストで一番ビリだったヤツが一番点数高かったヤツの言うことを聞くっていうものです。ああ、もう。二度としない」
「へえ。でも、そんな罰ゲームを律儀に実行するアナタも、随分とお人よしというか」
「逃げられなかったんですよ。罰ゲームを考案したやつの姉とウチの姉が友達同士で」
「ああ、なるほど。でも、大人になったら、テストの点数は関係無くなるわ。調べるときに自由に調べて答えを導く。いや、そもそも答えはひとつじゃないってこともある。仕事に必要なのは、そういう能力かな」
「お姉さんは、なんの仕事をしてるんですか」
「メーカーのエンジニアよ。やってることはケミカル系」
「エンジニア? 女の人なのに?」
「ええ。機械とか電気とかは男の人が多いけど、化学とかの方面は女性の割合も多いのよ。今は、製品についた不純物の成分解析をしてるわ」
 私はつらつらと説明するが、男の子はキョトンとした顔を浮かべていた。そうか、説明が難しかったか、と反省する。
「お姉さん、頭良いんだ……」
「そんなことは無いわ。やるべきときにしっかりやれば、私くらいのことは出来るようになるから」

あのころを追い越すまで

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