6月期
テーマ:お隣さん
壁のむこうの色
二人を助けてくれてありがとう。
もしかしたらそれを言いに戻ったのかもしれない。そう思ってさくらの紙くずに書いた。
『ふたりを助けてくれてありがとう』
さくらの紙くずをお隣さんのポストに入れてアパートを後にした。暗闇の中、揺れる犬が、揺れずにこちらをじっと見ている。どうやって生きていこう。どこへ行こう。なにをしよう。そういえば目が痛い。身体があちこち痛い。そうだ。そういえば携帯がずっとうるさかった。アイカが心配していた。アイカ、か。酷いことを言った気もする。こんな自分を受け入れてはくれないだろう。こんな自分を見せるのも嫌だ。
公園のベンチに座って揺れない犬を眺めた。笑顔いっぱいで元気に犬を揺らすさくらを思い浮かべた。そうしたら幸せな気持ちになれた。それに涙がまた止まらなくなった。
お兄ちゃんが助かってほしいって思ってるんだよ。
お隣さんの言葉が胸をつく。アイカのところに行ってもいいだろうか。行ってみようか。聞いてみるだけでも聞いてみようか。俺はアイカにラインを送った。さくらと優也が、お兄ちゃんもがんばれ。そう言ってくれている気がした。
壁のむこうの色