テーマ:二次創作 / 雪女

化ける

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と、男の声。
「だから、死神、ではない、のね」
と、女の声。
「まてよー。
ラフカディオ・ハーンは、西洋人だ。
と、すると、雪女は?」
と、男の声。
 
猛吹雪の音が、激しさを、増す。
雪を、踏む、足音。
苦しそうな、息遣い

突然。
「死神だ!」
と、男の叫び、声。
ここから、女の声が。
ヒステリックな、不気味な、声質、に。
男の声が、慌てふためく、声質、に。
「そう、なのかい!」
と、女の不気味な、声。
「え!」
と、男の恐怖に、震える、声。
「死神、なんだ、ね」
と、女の声。
「ああ、あのー、死神、では・・」
と、男のかすれた、声。
「そうかい。じゃーいい、ね」
と、女の声。
 
猛吹雪の音が、頂点に。
バサリと、枝からの、落雪の音。
「気づくのが遅かった。
女は・・・」
と、男の絶望的な、声が・・。
 
ヘリコプターの音。
翌朝。
男の凍結遺体が、樹氷の下で、発見された。
唯一の、遺留品として、物語研究会の、パンフレットが。
雪原に、点々と続く、狐の足跡には、誰も気を、留めなかった。
狐の甲高い鳴き声。

と、いう、ストーリー。
これが、湧き上がってきた。
研究室の中、で、だ。
誰も、こんな秘め事、知られる、ものか。
ニンマリと、顔が、ゆがんだ。
全身を、完璧に覆う、防寒着。
二重の、フード。
そこから、覗いた顔面は、雪女。
研究室?
と言うより、お大掛かりな、研究施設、だ。
零下、50度。
超低温研究所。
世界屈指の、施設の中だ。
地球の呼吸を探る。
かっての、氷河期。
そんな研究。
が、役割だ。
ガラス窓からの、冷凍、凍り付く世界。
それが、覗ける。

どれが、ほんと、なんだい。
雪女が、冷たく言った。
そして。
「ふふふふふふ」
と、笑い声が、聞こえる。
男は、凍り付いた。
いや違う、凍り付いていた。
研究室の中の、秘密の、物語。
知るのは、研究員の、この女、だけだ。

五千年前も、こんな、物語。
そういえば、アルプス、で、も。
したわ、ね。
「ふふふふふふ」
と、笑い声が、再び、聞こえる。
  
その瞬間。
遠く離れた、イタリア。
ある研究棟に、横たわる。
アイスマン、が、ピクリと、動いた。
そのことを、誰も、知らない。

ミーン・ミンミン・ミンミン・ミー。
ミーン・ミンミン・ミンミン・ミー。
夏ゼミが、鳴いている。

一週間前。
研究室から。
忽然と、消息を、絶った、研究員。
その、若い男の、捜索が。
懸命に、続いていた。

化ける

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