赤ずきんちゃん一家の引っ越し
「ねぇ、おばあちゃんと一緒に住めないかしら?」
夕飯になり、家族面々がそろった食卓の席で赤ずきんが言った。
数日前、彼女は散々な目に遭った。
おばあちゃんのお見舞いに行ったと思ったら、オオカミに食べられ、偶然異変に気付いた猟師のお陰で腹から脱出を果して難を逃れたのだ。
先に食べられたおばあちゃんも、猟師のおかげで助けられた。
猟師様様であるが、この後、赤ずきんのお母さんは猟師にこっぴどく叱られた。
子供をたべるオオカミがいる森に、なぜ娘である赤ずきんを一人で行かせたのか?
なぜ、そんな危険な所に祖母を一人住まわせているのか?
危機管理意識が低いのではないか?
思い出して、「おばあちゃんと一緒に住めないかしら」と無邪気に提案する娘に、お母さんは苦々しい表情で沈黙する。
お父さんもだった。今回の一件は村中の噂になっている。
妻が昼間、赤ずきんに何度も念を押したのをお父さんは見ていた。
「オオカミには気をつけろ」「話しかけられても知らん顔をしろ」「どんな悪い事をするかわからない」
だというのに赤ずきんの話を聞くと、オオカミに対して無防備に対応した挙句、寄り道をすすめられて、花を摘んでいたらしい。
その間におばあちゃんはオオカミに食べられて、今回の騒動の発端となった。
【お宅はどういう教育をしているのかしら?】
子共に罪は無いが、そうなると矛先は保護者である両親に向う。
両親の沈黙に気付かない赤ずきんは、無邪気に蒸したジャガイモとトウモロコシのスープを啜り、焼きたてのパンを食べて、りんごと木イチゴをまぜたジュースを飲む。
この子がおばあちゃんの為を思い、言っているのだとわかっている。
無垢で可愛いわが子。
この子が母親の忠告を守り、まっすぐ、おばあちゃんのお見舞いをすませたら、こんな事にならなかったと思うのは、勝手な想像だろうか。
「どっちみち、おばあちゃんは引き取らないといけないからな」
ようやく口を開けた父親は、無理矢理笑顔を作って赤ずきんに言う。
本当に、どうしてこうなった……。
被害者はこっちなのに、小さな村で起こった珍事件【オオカミの腹から脱出した幼女と老婆】。娯楽に飢えた村人たちのかっこうの餌食である。
当事者にとってはたまったものではない。子供に類が及んでいないのが不幸中の幸いである。
「だとすると、お義母さんの為にも引っ越すしかないわねぇ」
重いため息をつくお母さんは、家計簿の赤い数字を頭に浮かべる。
赤ずきんちゃん一家の引っ越し