テーマ:一人暮らし

先輩の彼氏

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

「もしもよ、彼があなたにいいよったりしたら、あなたはどうする?」
「そうね。聡里さんから、奪っちゃおうかしら」
二人は顔をみあわせ、声にだして笑った。これには周囲にいたみんなもつい、つられてほほえむほど明るい笑いだった。

夜中の2時に彼女から電話がかかってきた。
「はい」
「彼、いってない?」
「え」
「秀樹、あなたのところにいってないかしら」
「まさか」
「昨日から、かえってきてないのよ」
スマホを通してさえ、その張りつめた気持ちははっきり伝わってきた。
「どうしてうちに?」
「女の直感よ」
「本当に、彼はきてません」
「そう」
それ以上なにもいうことなく、スマホは切れた。
私は手にしたスマホを、おもわずおとした。私はいま、秀樹の膝の上で、芯からもえあがるろうそくのように熱くはげしく揺れていたのだ。
彼がふいに私をたずねてきたのは、まさに昨日の夜のことだった。じつは私も、彼をまちわびていた。あのとき目のあたりにした、こちらの視線に気づくこともしなかった彼女の、愛欲の喜びにどっぷりひたりきった様子が、いつまでも頭にこびりついて離れなかった。私も彼女のように、彼に抱かれたい。その思いは私のなかに、秀樹という男性に、実在の肉体をもたせた。それは目をみはるほど見事にひきしまった男の体だった。
「秀樹」
私は彼の逞しい腕のなかで、こみあげる悦楽の極みに泣いた。

先輩の彼氏

ページ: 1 2 3 4 5

この作品を
みんなにシェア

7月期作品のトップへ