想い綴る日々
(写真が着いていた場所の下部に一文)
1983/3/16 一番大切な思い出
日記を読んだ日から数日が経ち、今日はおばあちゃんのお葬式の日。ここ最近の陽気ですでに桜が芽吹き始めていた。きっと私の入学式の頃にはもう桜は散ってしまっているかもしれない。そう思うと少しだけがっかりしたけど、火葬場に咲いた早咲きの桜は綺麗で、春江という名前のおばあちゃんを見送るのにとても相応しく思える。これから必要になるだろうと買ってあった冠婚葬祭用の真新しいワンピースを持て余し気味に着ている私は、火葬場の隅っこでそんなことを考えていた。通夜と式では堪えきれずに泣いていた母も、今は忙しそうに弔問に来てくれたお客さんを送り出す挨拶をして回っている。
昨日のお通夜で母は山本先輩を紹介してくれた。山本先輩はイメージした通りの人で、初対面だというのに妙な親近感があり不思議な気分になった。なっちゃんにもこんな大きな娘さんがなぁ、なんて大柄な体に似合った大きな声で驚いていた山本先輩は、こんなことを教えてくれた。
「春江さんは本当に親切な人でね、だけど不思議だったのは入居した学生にノートを一冊渡してこれに日記をつけろ、なんて言うんだよ。俺も最初は面倒くさいと思ったもんだけど、あれも春江さんの優しいところなんだよなぁ。今でも掃除していて日記が出てくると読み返しちゃうわけだ。そうするとね、大変だったけどあの時があるから今があるんだよなと思うんだよ。まぁ、俺の場合は留年した挙句、卒業してもしばらく世話になってたから四冊にもなっちゃったけどね」
そう言ってまた大きな声で笑った山本先輩は、今でも感謝しているとおばあちゃんに深く頭を下げて帰っていった。私は聞こうかどうか迷っていた彼のことを、結局聞けずに終わってしまった。でもそれで良かった気がしている。
ふと気づくと、母が火葬場の建物の方から私の方に大きく手招きしているのが見えた。挨拶もほとんど済んだようだ。母へ向かって歩きだした時、門の方に足を引き摺りながらも、力強く歩く人が見えたような気がした。私は振り返らずに少しだけ強く足を踏み出した。あの日記はおばあちゃんが大切に持っていきましたよ、そう心の中で呟いた。
16/4/2
今日から私の一人暮らしが始まる。期待も不安もあるけど頑張っていこう!
(おばあちゃんの買ってくれた日記、見つかってよかった!)
想い綴る日々