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 おそらくその順番で話が進めるつもりだな、と私は先読みした。
「まずカルツ氏は『未解決問題の証明』に驚くわけです。現在、未解決であるミレニアム問題の五つすべての証明が、メモリーに保存されていたわけですから」そう言う宮本秀夫の口ぶりに驚きはない。
「ミレニアム問題というのは、数学界で今現在、解かれていない難問でしたね」
「はい、超がつくほどの」宮本秀夫は、超の部分を強調する。
「その時点で、これがいたずらの類いではないことをカルツ氏は悟り、まずは、ごく限られた数学者仲間に、ミレニアム問題の証明のコピーを送信し、正しい証明かどうか、検証作業の依頼をした」
 宮本秀夫は頷いた。「賢い選択でした。世界有数の知性に賢いなんぞ言うのはおこがましいですね」ここは編集でカットかな、とつぶやく。
「賢いとはどういうことです?」
「カルツ氏は全世界の数学者たちにも、五つの証明を公表することもできたが、そうはせず、親しい数学者の数人に検証作業をお願いしただけなので、このことを知っている人間はごく少数で済みました。それが正しかったということです。もちろん、カルツ氏のこの行動は、彼らにあらかじめ予測されていたでしょうが」
「彼ら、ですか」確かにどこまで事態を見透かしているのか、見当も付かない。それから念のため私は、検証作業の結果、五つのミレニアム問題の証明に間違いはないこと。現在に至っても、世間に公表はされていないことを、言い足した。
 並行して、カルツ氏は、『ギャンブルの結果』を解読していますよね。
 私は次の話題に入る。
「ええ、最初、その数字の羅列がギャンブルの結果とは、誰も思いもしませんでした。一から十四までの数字がランダムに長々と記述されている、それだけのものでしたので」
 私はそこで、自分がその数字の規則性を解いたかのような口ぶりで、言う。「ヒントは大井、でしたね」
 親日家らしいカルツ氏らしい直観と洞察です。「データの毎ページに記載されていた、『01』の数字に着目したカルツ氏は、これは数字ではなく、アルファベットの『O』と『I』、つまり、『大井』と書かれているのではないかと推理した」
「大井という地名と、一から最大十四までの数字の羅列から、大井競馬場のレース結果だと、彼は答えを導き出した。ホームページで確認したところ、その数字は、大井競馬場で向こう一年間、行われるすべてのレースの、全頭の着順だということが徐々に明らかになりましたね」

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