小さい隣人
だが、彼女はキャベツを切り分け、1つの袋を満たすだけで消えてしまったのだ。私たちが声をかけなければもっと大量の食材を持って帰れたかもしれない。
「足りないかもねぇ。あ、じゃあ。小人さんが取りにきやすい場所に置いておこうか。」
もしかしたら私たちが見ていない時に、再びやってくるかもしれない。
「うん!」
エリは目を輝かせて頷く。私がテーブルの上に手を伸ばそうとすると、
「あ、エリがやる!」
私に抱きかかえられていたエリが声をあげた。
それから定期的に小人は私たちの前に姿を見せるようになった。その度に、エリは余った食材を小人の前に持っていく。
すると次第に小人も警戒心を解き始めてきた。
エリが持ってきた食材を見るといつも特定の言葉を大声で発し、必要な分だけを腰についた袋や背中の籠に詰めると消えていく。
彼女たちの言葉でお礼を言っているのかもしれない。
他にもエリは、人形遊びで使っていた家具をあげたり、食材を持って帰りやすいように小分けにしたり。あれこれと小人の世話をするようになる。
最近はついにエリの手の上に小人が乗ってくれたらしい。誇らしげに私に報告をしてきた。どうやら随分と懐かれたようである。
そしてそれは思いがけない効果を生み出すこととなった。
「ママ。いつもご飯ありがと」
晩御飯が終わったと、エリ自分の口を、自分でぬぐいながら私に向かって言う。
「どうしたの、急に?」
自分の食器を片付けていた私は、驚きながらエリを見つめた。はにかんだ笑顔をしている。
「だって小人さんはこうやってご飯を取りに来ないといけないけどさ。エリにはママがいて、ママがご飯を作ってくれたり、お世話してくれるから。」
「当たり前じゃない。ママは、エリのママなんだから。」
なんとなく私も照れくさくなって、そそくさと流し場へと歩いていく。
「でもさ、ママのことは、誰がお世話してくれるの?」
私の背中に向かって娘が尋ねた。
「ママは大人だからそんなの必要ないのよ。」
私は食器を洗い始める。
「行ってくるね。」
次の日の夕方。私は晩御飯の支度のために家を出る。
「いってらっしゃーい。」
エリが玄関で手を振る。ここ最近、一人で留守番させてもぐずることは滅多になくなった。急にしっかりし出した娘に見送られながら玄関の扉を閉める。
帰りに小人の絵本でも買ってきてあげようか、そんなことを思いながら、私は外へ出る。
エントランスから続く道は一本道となっており、両脇には八百屋や魚屋をはじめ様々な店が立ち並んでいた。
小さい隣人