小さい隣人
「家の中から何かが少しだけなくなった時、きっとそれは小人さんのせいね。」
その話の一つ一つを、目を大きくさせながら娘は聞いている。
「私も小人さんとお話したいー!」
一通り私の話を聞いた後で、娘は声をあげた。口の周りには夕食のカレーが付いている。
「じゃあ、今度見つけたらそっと話しかけてみようか。」
私はその口を拭いてあげなら答える。
「そうするー!」
頭を上下に揺らすという謎のはしゃぎ方のため、ティッシュを持った私の手は、エリの口の周りで何度も空を切った。
夕食の片付けもひと段落がついた時、私は「おや」とテーブルに目をやる。
テーブルには、大きな一枚の白い皿が置いたままで、その上に余りの食材が載せてある。キャベツにジャガイモ、トウモロコシ。
私はできるだけ音を立てないように、リビングへと足を運ぶ。エリが絵本を読んでいた。
「エリ、エリ。」
小さな声でエリに話しかける。自宅で声を潜めている母親が不自然なのだろう。娘はキョトンと私を見た。
「こっちおいて。」
私はエリの手を引いて台所に向かう。テーブル台よりも身長の低いエリを抱きかかえると
「声を出しちゃダメよ。」
そっとエリの体を持ち上げ、テーブルの上を指し示した。
「あ。」
反射的にエリは小さな声を出し、すぐに自らの両手で口を覆った。
そこには小人がいた。先ほど、本棚とクローゼットの隙間から見た小人であろう。皿の上の1/4程度に切られたキャベツを、自ら持っている小さな包丁で切り取り、せっせと小脇に抱えた布製の袋の中に入れている。
「すごーい。」
エリが感嘆の声をあげる。すると、小人はビクッと体を硬直させる。周囲をキョロキョロと見渡し、最後に恐る恐る顔を上げた。
「こんにちはー」
娘が小さく話しかける。小人は何やら言葉を発しているようであるが私たちには理解できない。
そして、
「あ。」
エリが声をあげたと同時に、小人は踵を返してテーブルの端まで走っていった。
そこから器用にテーブルの足の木目をつたりながら、地面へと降りる。私たちが目線で追いかけるよりも早く、今度は冷蔵庫の裏へと消えていってしまった。
「行っちゃったね。」
「うん。」
エリが落胆した声を出す。
「小人さん、あれだけでご飯足りているのかなぁ?」
続けて心配そうな声を出した。
「うーん。」
私は小人の様子を思い出しながら渋い声をあげる。あの小人は腹部には布の袋がいくつも取り付けられ、背中には木製でできた籠のようなものを背負っていた。
小さい隣人