小さい隣人
不審者?泥棒?ストーカー?物騒な単語が順次に頭の中に浮かび上がる。
しかし、リビングに敷いてある赤い絨毯の上にはエリがいるだけだ。周りにはこれから遊ぼうとしたのか人形が散布している。まさかこの人形のことではないだろう。
私の気を引こうした嘘だろうか?そう思いながらも、ある妙なことに気がついた。エリは私に話しかけながらも、私の方向を見ていない。
部屋の隅のある一点を凝視しているのである。
「誰がいるの?」
蛇口をひねって手を洗うと、エプロンで拭きならがら私はエリの近くに寄っていった。
「あそこ、誰かがいるよ。」
腕を地面と平行にピンと伸ばし、人差し指はその先のある一点を示している。私はそれを目線で追った。壁を背にして本棚とクローゼットが置かれている。
どうやらその間の隙間を指しているようなのである。
「あ。」
私は声をあげる。確かにそこに人はいた。成人の女性。年齢は、私と同じかそれよりも少し上だろうか。30代くらいに見える。
しかし、その実寸サイズは私たちの手のひら程度。小人である。
彼女は隙間の奥からこちらを伺うようにじっと見ていて、やがてさらに奥へと消えてしまった。
「ママ?あの人たちは誰?」
「あれはね。小人さんだよ。」
「小人さん!?」
私の言葉に娘は目を輝かせた。嘘ではない。突然変異した人類なのか、遥か彼方からきた宇宙人か、それとも実態を伴った都市伝説なのか。
明確な理由は解明されていないが、私たちの生きる世界に、小人が確実に存在する。
「ね、ね。ママ?小人さんはどこに行っちゃったの??」
隙間に近づきながらエリは尋ねる
「小人さんはね。自分のおうちに帰ったんだよ。」
「自分のおうち!?」
さらに高い声でエリは疑問を口にした。
「あの隙間の奥はね。小人さんの世界と繋がっているの。」
小人は私たちの見えない場所で独自のコミュニティを築いているらしい。そして彼らの世界は、私たちの世界の隙間と繋がっているのだ。
小人のことを「小さな隣人」と呼ぶ人もいる。
「小人さんの世界かぁ。」
エリは夢見るようなうっとりとした声でつぶやいた。
夕食を食べている間、娘はずっと小人のことを聞いてきた。私もそこまで詳しくはなかったが、パソコンで調べ、いままでの目撃証言や言い伝え、定説をできるだけ噛み砕いて聞かせる。
「小人さんは怖がりなの。だから見つけても驚かせてはダメよ。」
「小人さんは幸運を運んでくれると言われているわ。だから優しくしないといけないの。」
小さい隣人