テーマ:ご当地物語 / 神奈川県:茅ヶ崎市、藤沢市、鎌倉市

自分探し

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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そうして待つこと1週間。ついにこの時が来た。僕は目覚ましもかけていないのに、朝の5時に起きてしまった。何もすることが無いので、とりあえず居間でシリアルを食べた。テレビをつけると朝のニュースが流れていた。天気予報の時間になった。今週1週間はずっと晴天らしい。なんと素晴らしい。10時半になった。店は11時から開店なので、バスに乗る時間も含めると、この時間に出るのがちょうどよいと考えた。いつもは暑さのせいで重くなる足取りも、今日に限っては、普通に歩いているつもりでもスキップになってしまうくらい軽やかなものだった。バスに乗ると、今度は途中で乗ってくる乗客や降りる乗客がいるたびにイライラしていた。心の中で、自転車が手に入る嬉しさと、早く乗ってみたくてウズウズした気持ちが混じっていた。そして目的地に着いた。店員に自分の名前を言うと、すぐに自転車を持ってきてくれた。相変わらずカッコよかった。しかも今度はライトやペダルもついている。店員が乗り方や、操作方法を説明してくれたが、ほとんど耳に入ってこなかった。そんなことより早くロードバイクに乗りたい。僕の欲求にはもうすでにエンジンがかかっていた。ご飯が目の前にあるのに、飼い主に「待て」と言われる犬の気持ちがこの時ほど分かった瞬間はなかった。今までウチの犬(名前はきなこ)にはふざけ半分で散々「待て」を言ってしまったな・・・。家に帰ったら謝ろう。そんなことを考えているうちに、説明が終わっていた。保証書や鍵をバッグに詰め込み、ついにサドルに座り、発進した。しかし、ママチャリと比べだいぶ前のめりの姿勢にならなくてはいけなく、しばらくはのろのろふらふらとしていた。しかし、100メートルもいかないうちにすぐに慣れた。すると、驚いた。一回足を踏み込むだけで、かなり前に進む。足にはほとんど力を入れていないのにどんどんスピードが上がってゆく。それに合わせて、ギアもアウターに入れてみる。カチッという音とほぼ同時に後ろからガシャンという音が聞こえ、ギアが重くなる。どんどん速くなる。月並みだが、まさに風になった気分だった。歩道を歩いている男の子や、ランニング中のおじさん、ママチャリに乗った買い物帰りのおばちゃんを、あっという間に抜かしてゆく。サイクルコンピュータを見ると、時速33㎞でていた。速い。33㎞というと、原付の法定速度より速いじゃないか。少し怖くなったが、それよりも気持ちよさの方が何倍も大きかった。追い風のおかげもあるのか、まったく抵抗なく進んでゆく。あっという間に家の近くまで来た。さっきバスで移動したのよりも早いのではないかと思った。普段は1秒でも早くクーラーの効いた部屋に飛び込むところだが、今日は1秒でも長くロードバイクに乗っていたかった。結局、一度家に戻って昼食をとり、また親と妹に自転車をひとしきり自慢した後、近所を飽きることなくずっと、ぐるぐる廻っていた。気が付くと、日が沈んでいた。さすがに腹も減ったので家に戻った。家に着くと犬のきなこがご飯を食べていたので、背中をさすりながら謝っておいた。きなこは僕が謝っているとはつゆ知らず、ご飯を食べ続けていた。むしろ食事中なのだから邪魔しないでほしいと思っているに違いない。夕飯をたべ、風呂に入り、ベッドに飛び込んだ。明日はサイクリングに行こう。行先はどうしようか。とりあえず江の島くらいまで行ってみようか・・・。そこから先の記憶がなかった。そんなことを考えているうちに寝てしまったようだ。昨日とはうって変わって、スッと眠りに落ちていった。

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