テーマ:二次創作 / 人魚姫

人魚姫と私の暮らし

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 なぜ私は死ぬことなく生き続けているのか。今日も彼女はすいすい泳いでやってくる。私に優しく口づけて、そっと息を吹き込む。肺中に空気が広がり、ふやけ切った皮膚が、輝きを増す。不思議と空腹感も消えていく。そして私は手錠のついた手で、彼女を抱きしめて言う。「なあ、どうにかこのコンクリートを砕いてくれよ、ちょっとづつで良いから」。そう言うと、いつも彼女は目を伏せて、尾びれを静かに振りながら何処かへ消えてしまう。彼女はいまも牡蠣を三つ付けている。

 潮の流れにゆらゆらと、かすかに差し込む太陽の光を眺め、そして私はまた目を閉じる。スニーカーをはけない二人が海の中。いまでも時々、あの水槽のような小さな家と、赤いコンバースを思い出すのだ。


『ためいき』

いちまいにまいさんまいと
いろがみ静かに重ねるように
ひらひらひらと
積み重なった ためいきで
気付けばふたり 海のそこ
ふかい海の そこのそこ

ちいさなあぶくが ぶくぶくと
ためいきつくたび ぶくぶくと
海のなかではさかなたち
尾びれのついた言葉たち
すいすい泳いで 消えていく
手を伸ばしても すり抜けて
今日もぼくらに 夜がくる

人魚姫と私の暮らし

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