テーマ:一人暮らし

ミントティー

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読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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デザートの大きなアサイーボウルを二人で分けながら娘が言った。
「お母さんの好きにしたらいいと思うわ。」
予想はしていたが、娘のその言葉を聞いたとき、離婚するということだけではなく、離婚は通過点として自分のこれからを作っていくという未来が、朧げに映し出されたような気がした。


帰りの機内で、飲み物のなかにシャンパンがあった。一人お祝い気分で瓶の蓋を開けると、白い煙とシュワシュワとした音と共に
「乾杯!」
と隣の男性が自分の水割りのグラスを少し上げて笑った。
「乾杯!」
茜もグラスを軽く上げて笑い返した。怖いほどの開放感が押し寄せてきて、一気にグラスを空けた。

空港から乗ったタクシーは、渋滞もあり小一時間ほど乗っていた。ドライバーの気さくでありながらも気遣いのある会話が楽しく、今、置かれている状況が正解なのだという気持ちに拍車がかかるようであった。
街路樹に日が差してキラキラと輝いている。家の前に着いて、運転手がトランクから大きなスーツケースを降ろした。
意図した訳ではなかったが、27年間の結婚生活にピリオドを打つという区切りの旅行となった。現実にはこれから片づけなければならない雑事が山の様にある。それでも不思議と気分は晴れやかだった。

取りあえず一人では広すぎる松濤の家は人に貸すことにして、こじんまりしたマンションを借りることにした。
部屋は一階の角部屋にした。ハーブを地植えにしたかったからだ。
夫とは別れられても、この丹精込め育てたハーブ達とは別れられない。ほんとに小さな庭だが、それなりに日も当るし、風も通る。
まさか50歳を目前にこんな事になろうとは思いもしなかったが、決めてしまえば事は進むものだ。
こうして早春の吉日、茜の49才にして初めての一人暮らしが始まるのだった。

ミントティー

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