6月期
テーマ:お隣さん
いまはまだねむるこどもに
「……電灯は、消しておくんじゃなかったのか?」
「――顔を見て欲しいのよ。……ちょっと話があるから」
おそらくこのとき、夫の心拍は高まったことだろう。以前、私が彼に妊娠を告げた日も、このような言い方で、このような穏やかな態度で言い出したのだから。
「実は、――アパートを探していたんだけど、いい物件が、一つ見つかったのよね」
夫は、この言葉に目を合わさなかった。
きっと夫は、このところの「ロウソクだけの生活」は、僕と別れて暮らすための工作だったのか、と思ったに違いない。
「……なるほど、それがゲームの目的だった、ってわけだね」
と夫は言った。それから、夫はなぜかしら微笑しながら酔っているような口調で意外なことを口走った。
「……男の子だったよ。肌の色は、茶色というより、赤に近かった。黒い髪の毛が生えていて、体重だって、2キロを超えていたんだ。……指を丸めていたけど、そういう仕草は、母親に似たのかな。……手狭な個室のベットで寝ている君の顔を見て、そう思ったよ」
その言葉を聞いて、私ははじめて夫と目を合わせた。その私の顔は、悲しみの涙で歪んでいた。このときはじめて、夫が、私を愛していたがために、私に死んだ赤ん坊との思い出については黙っておこう、と心に決めていたことを知った。私の目からは、自然と涙がこぼれていた。
それだけは、夫に通知して欲しい、と私がずっと思っていたことだったから。
今なら、また妊娠したことを言える、と思った。
「――今だから言うわ。私は、新しい灯りを、授かったの」
いまはまだねむるこどもに