夢のあと
「俺はもう何億年も星をやってるが、いろんなものが始まっては終わっていくのを見てきたぜ」
「星、あなたにも、いつか終わりがくるの?」
「もちろんさ。俺たちは、何億、何兆という時間を生きて、やがて超新星爆発っていう派手なショーのあと、また赤ん坊の星に新しく生まれかわるのさ。とはいえ、もっとずっと先の話だがね。必ず終わりってのはやってくる。俺にも、それからお前にも」
その夜すべり台は、マンションの灯りと団地の白熱灯に囲まれて、長い長い夢を見ました。鉄製の階段をのぼられるだんだんという音で飛び起き、どんな夢だったかは、すっかり忘れてしまいましたが。
団地の子供たちは、私のことを気に入ってくれました。「わかばニュータウン」に子供はどんどん増え、私は大人気でした。晴れの日は、カンカンに熱くなった金属の斜面を靴を鳴らして駆け下り、雨上がりでも、どろんこも気にせず、地面にたまった水たまりもものともせずに突っ込んでいくのです。私もそんな子供たちのことが好きになりました。
やがて私は、ふたりの子供の名前を覚えました。わぁっという大声がきこえてくると、たいてい輪の中心にいるのはななこという女の子で、泣き声がきこえてくると、たいていそこにうずくまっているのは、たけるという男の子。ふたりは同じ頃、わかばニュータウンに越してきたようです。ななこは一棟の五階、たけるは三棟の二階に住んでいます。ななこのほうが、たけるより頭ひとつぶん背が高く、ななこは、手も足も一年中まっくろで、たけるは夏休みでも、まっしろでした。
ななこがいつも違う色のりぼんをおさげにつけていたのは、「すべりだい全力駆け下り」や「立ち乗りシーソー」、「ぶらんこジャンプ」、「噴水大爆発」などの遊びに夢中になっているうちに、りぼんを落っことしてきてしまうからでした。たまにたけるが、私の足もとで砂まみれになったりぼんを拾うことがありましたが、届けに行く勇気がないのか、私の下に潜り込み、階段のてっぺんの踏切板を支える細い支柱に、ちょうちょ結びにしていました。赤いりぼんや、花柄のりぼん、黄色いチェックに、水玉もよう。私は、この秘密のおしゃれを気に入っていました。いつしか私は、シロツメクサの原っぱも、ススキの野っぱらも、広い空も、瞬く星のことも忘れ、ななこやたける、公園をかけまわる子供たちを目で追うようになりました。風の声よりも、公園のベンチで繰り広げられる若いお母さんたちの他愛ないお喋りに耳を澄ますようになりました。
夢のあと