テーマ:二次創作 / ラプンツェル

髪と家

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「募金活動で、たくさんの人から、ありがたいことに、お金をたくさんいただいたんですけれど、でも、ぜんぜん、家を作るのには足りませんでした。正直、もっとほしいです。叩かれた、心の傷とはつりあいません。それに、あの子に一刻も早く家をつくってあげたい。ええ、家です。塔っていうのは、やめました」「子どもに新しい塔が必要なんです!」「なんていっても、なんか、笑われるじゃないですか。家、です。やっぱり、家なんです。基本なんですよ、家が。でも、あの子の髪の毛のために、いまの家では満足に暮らすことができません。たとえば、タンスを開けたとします。そうすると、空気が吸い寄せられるみたいに、あの子の髪がタンスに入り込んできて、掻き出しても掻き出しても、もう、だめです。髪の毛が、家中をいっぱいにしてしまっているんです」

「家つくるの、楽しいね」「うん、ほんと」「なぁ」「なに?」「完成させたくね?」「うん」「投票しまーす、目をつむってくださーい」「家を完成させてしまいたい人は手を上げてくださーい」「お、お?」「わー」

「あの子の髪の毛があんなに伸びている原因はわかりません。お医者さまたちも」「原因不明だ」「っていっていますし、わたしたちも」「原因不明の難病なんです!」「っていってきました」「でも、あの、これはオフレコでお願いしたいんですけど、もしかしたら、バチがあたったのかもしれません。家の裏の、おばあさんの畑に生えていた、ラプンツェルっていうサラダ菜みたいな葉っぱを勝手に食べてしまって、そのことを、ずっと、気に病んでたんですよ。夫も盗んだし」「野草だと間違えたって、ばれたらいえばいいじゃん」「って。それで、そのことが、おなかのなかにいたあの子に影響してしまったのかもしれません」

「結局、家は準備中に完成させてしまうことになりました。そのことでいろいろと話が変わってきますが、話なんてつくり直せばいいです。とにかく僕たちは家をつくることが楽しくて、いま、いまが一番楽しければ他のことはどうでもよかったのです」

「最初は、塔をつくろうとしていて、そのときにお金をくれた人たちもたくさんいるんです」「え、塔? へー、かっこいいね」「って感じで、それで、そういう人たちのなかに、もし、やばい人がいたら、」「詐欺だ!」「っていわれてしまうんじゃないかって、怯えています。でも、家って、いいじゃないですか」

「家、けっこうできたねー」「そうだねー」「足音が聞こえる」「耳をすまして」「足音が……」「ばたばたばた」「ばたばたばた」「ドアが、もうすぐ、開きそう」「ばたーん、と」「ばたーん! ギョウザ! いいって!」「ジーザス!」「神さま~」「あ、でも、時間」「ほんとだ、もうすぐ終わりか」「終わっちゃうねー」

髪と家

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