テーマ:一人暮らし

初夏のわたがし

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 あのひとを、すきだと思ってから、ひとりで生きていることが、すこしもさみしくなくなった。
 ちいさな部屋を、ながめてみる。私そのもののような、居心地の良い部屋。そこに少しだけ、ちがう気配がある。ふわふわしている私を、さらにふわりとつつむ何かが、ある。
 なごりの砂糖がきらきらと目から落ちる。
 あのひとがすきだ。でも私は半分ではないし、あのひとも半分ではない。
 どんなに「ひとり」だと叫んでも、この部屋にはもう、私以外の何かがある。そしてそれはすでに、私を護ってしまっている。
 どうすればいいの。 
 今までずっとひとりで、少女漫画みたいな世界で生きてきたのよ。
 たくさんの世慣れた顔の下で、自分ひとりのために、純粋培養してきたのよ。
 すき、という気持ちを。
 それが急に表に出て、すっぽり身体を包んでしまって、そして私はわたがしになってしまった。
 私もあのひとも「ひとり」なのに、二人になっても「ふたり」じゃない。
 なごりの砂糖が部屋のあちこちにくっついてきらきらと輝く。ふわふわと、わたが飛んでいく。初夏の夜空。あのひとにくっつきたくて、とんでいく。あまくて、ぺたぺたとして、ふわふわとしたこころ。飛ばしても飛ばしても、少しもなくならない。いくら飛ばしても、半分にならない。ひとりと言うほどに、小さくはないこころになってしまった。
 あなたがすき。
 それがいやじゃない。すこしもこわくない。
 どうすればいいの。

初夏のわたがし

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