テーマ:一人暮らし

まぶたの裏のトワイライトゾーン

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

 (私、上昇しました。水の上に出ました。空、素敵でした。光、きれいでした。)
 急行電車が通り過ぎるのを待って、ダイオウイカは続けた。
 (苦しいときも、ありました。でも、あなたのお話思い出して、がんばりました。あなたの幸せな思い出、辛いときの希望になりました。ありがとう)
 いっときは思い出すたびに胸が痛んでぼくを苦しめた記憶の数々が、誰かの希望になっていたというのは不思議で、でもとてもあたたかい気持ちが胸にじわりと広がった。
 (私、ここで、家族、できました。ここで、仲間、できました。さびしくないです。あなたは?)
 ぼくは、大きくうなずいた。背中で、まばたきをする気配がした。
 (あなたも、さびしくないですね……)
 そのあとの言葉は、ちょうどホームに滑り込んできた電車の音にさえぎられた。ドアが開き、どっと人が降りてくる。ぼくは、人波に流されそうになりながら振り向いてみたけれど、たくさんの背中が急ぎ足で出口へ向かっていくのが見えるだけだった。
 それから、ダイオウイカとは、会っていない。

まぶたの裏のトワイライトゾーン

ページ: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

この作品を
みんなにシェア

5月期作品のトップへ