テーマ:一人暮らし

おこのみやき

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

坂田と石井はいつもつるむ男仲間だが、サエさんと中島さんはサークルでしゃべるだけなので、僕は坂田に小声で「どうして女子も一緒なんだ?」と聞いた。
「近くにいたから、誘っただけやで」と坂田はそっけなく答える。
それをきくと石井は、ニヤニヤ笑いながら、坂田を小突く。
「違うやん。ワタルが元気ないから、なんかしよかって、お好み焼きパーティーとかして、女子も連れて行ったら元気出るんやないかって、おまえが企画して、おまえがわざわざ二人を誘いに行ったんやろ」
「それは黙っとけよ」
坂田は顔を赤くして、石井の後ろ頭を小突く。
石井は坂田を指差しながら「こいつ、サエさんと中島さん誘うの、めっちゃ緊張してたんやで。でもワタルは自分から言えへんからって、ものすご、勇気振り絞ったんやで」と言った。
僕は嬉しかった。僕の元気がないことに坂田が気づいていたこと。そんなふうに気を使ってくれたこと。坂田は僕の元気のなさなんか、何とも思っていないんじゃないかと思っていた。いつもぶっきらぼうだし、気にするなとしか言わなかったから、こういうガサツなやつなんだと、僕は思ってしまっていた。でも坂田はガサツなやつなんかじゃなかった。僕の気持ちに気づいていたし、どうにかしようと思ってくれていた。僕の方が、坂田を分かっていなかったのだ。
「できたで、お好み焼きのタネ。さっそく焼こか!」
サエさんはさっそく、キャベツとあげたまと、長いものすりおろしと、しらたきと、紅ショウガがはいったお好み焼きのタネをホットプレート流し込み始めた。
「なんでタコヤキやなくて、お好み焼きなん?」中島さんが聞くと、「タコ焼き機、うちのおかんがほかしてしもてん」と坂田が答える。
「うちにあったのに」
「うちもやで」
僕は感心して、「一家に一台、タコヤキ機があるんだね」と言うと、みんなはいっせいに「そやで!」と答えた。
ふかふかのお好み焼きがやきあがり、ソースと、かつおぶしと、青海苔がふりかけられた。
「食べてや!これが大阪人の作ったお好み焼きやで!」
サエさんは最初の一枚目を、僕の前に置いてくれた。
「僕から食べていいのかな。坂田から食べなよ」と僕が皿を回そうとすると、「遠慮すなや。おまえが食べ」と、坂田が割り箸を渡してくれる。いささか強引だけど、温かい。それが、大阪人の気性なんだと僕は思った。
「ありがとう」
僕はお好み焼きを食べた。
ふかふかして、あったかい。こってりとしていて、甘くもある。元気が出る味。

おこのみやき

ページ: 1 2 3 4 5

この作品を
みんなにシェア

5月期作品のトップへ