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おこのみやき

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「え、どうして。何しに来るのさ」
「そんなに警戒すなや。おまえ大阪にきて、二か月やろ。それなのに、お好み焼きもたこやきも食べてへんって言ってたから、それを石井とかに話したら、おまえんちで、お好み焼きパーティーしよかって話になったんや」
「ありがたいけど、今?」
「おう、今からいくで。ビールも持ってく。部屋綺麗にして、待っとき」
「はあ…」
電話はぷっつりと、切れた。
静寂につつまれた家の中で、僕はきつねにつままれたような気持ちになった。

夕方前になると、坂田と、石井と、サエさんと、中島さんが家にやって来た。意中の中島さんまでいることに、僕はさりげなく仰天しながら、ドアを開ける。中島さんはひよこ色のサマーセーターを着て、デニムパンツをはいていた。髪をアップにしていて、うなじが見える。僕は部屋の拭き掃除を怠ったことを後悔した。
彼らは僕の部屋をシンプルだ、なんもない、つまらん、などと酷評したあと、勝手に持参したホットプレートをプラグにつなぎ、女子二人はキッチンでキャベツを切り始め、手際良く料理を始めた。
「何か手伝うことある?」
僕はお皿やサラダ油など、一応家にあるものを出しながら、女子に聞いた。
「大丈夫」
僕は一年先輩のサエさんが、まな板で切っているものを見て驚いた。
「お好み焼きを作るんだろ。しらたき、なんて、何に使うんだ?」
「しらたきを細かく刻んでお好み焼きに入れると、おいしくなるんやで」サエさんはふふふんと鼻を鳴らして答える。
「うちはマヨネーズいれてるわ。生地がふっくらするから」中島さんも笑いながら言う。
坂田をサークルに引き入れた地元の先輩のサエさんも、坂田の中高時代からの友人の石井も、サエさんの後輩の中島さんも、僕以外の四人は、皆、地元の出身だった。
「大阪の人は、家のオリジナルのお好み焼きの味があるんですね」と僕が感心して言うと、「青森もなんかあるんやないの?独自のリンゴ料理とか」とサエさんが聞いてきた。
「独自のリンゴ料理…?」
僕が途方に暮れて佇んでいると、女子二人は体をくねらせて、「ワタルくんて、変やなぁ!」と笑った。
僕はまた変な事を言ってしまったようだ。顔を赤らめて踵を返すと、中島さんは追いかけるように、「変で、ほんま一緒にいると楽しいわ」と言った。
僕はさっきより一層、顔が赤くなるのを感じた。
「男性陣はやることないから、ビール開けようぜ」
部屋のローテーブルでは、坂田と石井はもう乾杯をしていた。

おこのみやき

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