おこのみやき
僕が頼んだ料理は、海老フライ定食だった。なのに、出てきた料理は、ハンバーグ定食だ。僕はため息をつきながら、割り箸を割る。
友人の坂田が、僕のハンバーグを見ながら、「おまえ、ハンバーグちゃうやん。海老フライ定食やろ?」と声をかけてきた。
「うん、そうだけど…でも、ハンバーグでもいいんだ」
「だめやろ」言うが早いか、坂田は大声を上げて、おばちゃんを呼んだ。
「おばちゃん、こいつ、エビフライやで! ハンバーグ定食ちゃう!」
おばちゃんは丸い顔をにこやかにほころばせて「ああ、そうやった?ごめんなさいね」と、軽やかにハンバーグ定食を下げていく。
僕は恥ずかしい気持ちで坂田を押しとどめようとしながら、「別によかったのに」とぶつぶつ呟く。坂田は鼻息を荒くして言う。「ちゃんといわなあかんで。値段もちごうてるし、お会計するときとか、あとで迷惑なるやろ」
確かにそうかもしれない、と僕は思った。僕一人が我慢すればいいか、とすぐに思ってしまうのは、僕が青森の出身だからなのかもしれない。
「だいたい自分、いつも言いたいこと、なんも言わへんやろ」
坂田はまゆ毛をあげて僕の方を見ながら、自分のオムライス定食をかっこんでいる。
「さっきの役割決め、なんや。カレーの係りになりたいんやったら、自分ではよ、やりたいって言わんかい」
今更それを蒸し返すのか。顔が熱くなるのが分かる。僕たちは大学で同じアウトドアサークルに入っている。アウトドアサークルと言っても、ピクニックしたり、軽く山に登ってみたり、男女が遊んでいるようなサークルだ。そこで僕は意中の中島さんと同じカレー係りに手を上げたが、あまりにライバルが多かったので、係りを他の人に譲ったのだった。
「でも、人数が多かっただろ」僕は口をとがらせて反論する。
「自分が遠慮することないやろ。そんなん、公平にじゃんけんで決めるんやから」
「でも…」
「自分が変に遠慮なんかするから、場の空気、おかしなってたやろ」
僕は少し考えてから、投げやりに呟く。
「ああ、やっぱり、変になってたんだ」
坂田は口をぽかんとあけて僕の方を見ながら、「ほんと変な奴やな」と呆れたようにいった。
念願の第一希望の大阪の大学に入ることができた。とてもラッキーなことで、幸せなはずなのに、僕は近頃なんだか、自分に自信が持てなかった。
大学に入って、授業で隣り合わせたことから僕は坂田と仲良くなり、坂田の高校の先輩がやっているというサークルに流れで入った。坂田が地元の人間と言うこともあり、僕は坂田を通じて、多くの友人に巡りあえた。
おこのみやき