テーマ:一人暮らし

僕のカレーと君の謎

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「聞いてたのかな?」
「まあいいや。聞いてたと仮定しよう。で、その子は頭が良くて優しい」
「うん」
「それに加えて、その子は多分、かつてのクリスティーナ・リッチばりの名子役だよ。クリスティーナは今も名女優だけどね」
「明智君が言ってる事、よく分からないんだけど?」
「幽霊なんていないし、人形も魂なんて持たない」
「もったいぶってないでさ、早く教えてよ」
「全部、その子の仕業さ」
「悪戯にしちゃ、度を越えてるわ。それに、そんな事をするような子じゃ・・・」
「いい子だからね。親思いの」
「あ、そうか」
 そこで美樹の頭でも、パズルが解けたようだった。
「つまりその娘さんが、病院の経営が大変なのに、お父さんが無理して自分にお人形を買ってくれた事を知り、さらにお母さんの家族への想いも知ってしまって、人形を手放す方法を考えたってこと?」
「誰も不快にならないと、少なくとも彼女が思える方法でね」
 そこでキッチンタイマーが、カレーの仕上がりを告げた。
「よく音が鳴る部屋よね」
「カレーが仕上がったんだ」
 カレーを美味しく作るコツは、箱に書かれたレシピ通りに作る事で、謎を解くコツは、何故それが行われたのか?を考える事だ。
「その家族、楽しそうだった?」
「え?まあ、そのこと以外はね」
「笑ってた?」
「相変わらず変なこと聞くのね」と、美樹は笑った。
「まだ笑うことが出来る限り、彼はまだ貧乏ではない」と、言った映画監督は誰でしょう?と、僕は美樹に尋ねた。
「どうせヒッチコックでしょ」と、呆れたように美樹が答える。
「その家族、また君のホテルに来れたらいいね」
カレーをよそいながら、僕はわりと心からそう思った。
「その時は、また電話していい?」と、美樹が聞いた。
「構わないよ」と答えて、僕らは長いさよならを告げた。そしてまた部屋は、一人暮らしの静けさを取り戻す。

僕のカレーと君の謎

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