5月期
テーマ:一人暮らし
味
「そう、よかったわね。お母さん、一日と言わず、もっとゆっくりして来てもいいわよ」
子ども達は羽を伸ばせるのを喜んでいる。夫も早めに帰宅してくれているようだ。
「そうもいかないわよ。それはそうと、遙もこの機会に、進学のこととか、お父さんとも話してみたら」
「えーっ。だって高校はもう決めてるし、他に話すこともないもの」
「どんなことでもいいの。友達のこととか、学校で流行っていることとか、自分の夢とか。何でもいいの。ねっ。いい、わかった?」
「うーん。わかった、わかった。じゃあね、おやすみ」
やれやれ。一方的に切られた携帯電話の画面を見つめる。
――遙には一回きちんと話しておかないといけないわね。私と同じ思いをさせたくないもの。
後から苦労して取り戻せるものもあるけど、やはりその時にしかできなかったそれとは違う。似たように見えるけど同じじゃない。
「今度帰って来っとは、三回忌たいね」
帰り際に父が言った。
「そうね。でも、その前に一回、お盆にでも帰るわ。遙と一緒にね」
思わず父の顔が緩む。母の葬儀の時は、子ども達は夫と共にとんぼ返りしたから、ほとんど父とは話をしていない。
「お父さん、きっと驚くわよ」
「何て、この間会うたばかりたいね」
父は私の意図に気づかない。
――それまでにあの子に、あと二三品目、伝授しなくちゃ。
私は、昨夜母の遺影に向かって話しかけていた父の後ろ姿を思い浮かべている。
味