テーマ:ご当地物語 / 岐阜県岐阜市

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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アキはデパートの入口を通り過ぎたところで一度振り返り、二人がついてくるのを確認してから次の角を曲がった。それからもう一度曲がる。そこにカレー屋があった。古い店舗を改装した趣がある。それに多分に手作り感が漂い、看板のデザインもヘタウマだった。
「面白い店だね」と栄吾は感想を言った。
「確かに」とトオルが合槌を打つ。
店内には擬似的なインド感が濃厚だった。象の置物や仏陀らしき絵、店内にかかる音楽がその印象を醸し出している。カウンターに若い男が一人いて、アキが兄さんと声をかけるとカウンターを出てきた。
「兄よ」とアキが二人に紹介する。
「こちらは去年、高校のサークルの交流会で友達になったトオル君とお城で知り合ったおじさん・・・」
「お城で知り合ったおじさんって何?」アキの兄は腑に落ちない様子だった。
「ご飯を御馳走してあげるというから、この店を紹介したの」
「まっ、いいか。お袋だけは心配させないでな」
注文を取り終えたアキの兄は早速カレーの準備に取り掛かった。
「連絡はまだなのかい?」スマホの画面に見入るトオルに栄吾は訊いた。
「残念だけど、まだないですね」
「学生証の再発行は簡単なのかい?」
「二千円ぐらいかかるそうです。その話を聞いた時は絶対なくせねーと思ったのに」
「結構な値段だね」
「だから一週間くらいは出てくるのを待って、それでも駄目なら再発行を依頼する人が多いそうです」
「今日中に連絡があるといいね」
「えー、まー」
カレーが間もなく運ばれてきた。栄吾が頼んだドライカレーは案外美味だった。
「カレー、美味いですよね」とアキの兄が水を継ぎ足しに来た時に栄吾は言った。
「そりゃ、嬉しいな」
「インドに修行にでも行かれましたか?」
「何故私がインドに行くんです。これはオリジナルのカレーです」
「兄貴は器用なだけよ」アキが笑って言う。
食べ終わった頃を見計らってアキの兄がチャイを運んできた。
「チャイはサービスです」と彼は言った。
アキの兄もテーブルに着き、一緒にチャイを飲む。少しだけアキの家族の話になった。両親は離婚して、彼らの面倒を見てきた母親は現在入院しているらしい。折角なので柳ケ瀬の情報もざっと聞いておく。約束通りまとめて金を払って外に出ると、二人が路上で待っていた。
「サワノさん、ご馳走様でした」と二人が頭を下げる。
 彼らの礼儀正しさに栄吾はかえって戸惑った。
「今、電話がありました。学生証が届けられたそうです。これから二人で取りに行きますけど、いいですよね?」

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