4月期
テーマ:一人暮らし
花も涙も置ける部屋
柊也は痣に囲まれた悲しい目でじっと窓の外を見た。
「柊也がいるんだなって思うだけで、私は安心してここに居れたんだよ」
言葉がすらすらと出てくる。思いを伝えたいと、ただそう思いながら話した。
「私も家がないって柊也と話して気づいたよ。だけど一人暮らしはじめて、人と出会って、柊也と出会って、秦野さんと出会って、全然寂しくなかった。一人で暮らしてるのに、寂しくなかった。一人暮らししたら、はじめて一人じゃなくなった」
柊也はじっと真剣な顔したまま聞いていた。
「だからね、柊也も。柊也もきっとそうなれるよ? 家は、これからいくらでも作れるよ。私はここで、自分の家つくっていくよ」
私は柊也の力のない手をそうっと触った。暖かかった。柊也は顔を隠すように俯いて、やわよわしく、でもすごく優しく手を握り返してくれた。
「ここにいるからね。いつでも来て」
「……」
柊也の目から涙が落ちる。腫れた頬をつたって私の部屋に落ちた。荷物を置いて、なんでも話して。私は家を作る。自分と、自分の大切なひとのために。
「おはよう、アイカちゃん」
「おはよう、秦野さん。いってきます」
「うん。いってらっしゃい。きをつけて」
朝の掃除をする秦野さんに笑顔で挨拶をして、また一日が始まった。
『バイトいってくんね、アイカ』
『気をつけてね、柊也』
駅のホーム。ラインを打ってからスマホを鞄にしまう。スイカを取り出すために財布を出した。そこにはもう、あのクマのキーホルダーはない。
お母さん。私は生きてるよ。元気に、生きてるよ。
花も涙も置ける部屋