4月期
テーマ:お隣さん
お隣さんは顔も知らない文通相手
「それから向いの古本屋。世代交代して息子さんがやってるんだって」
古本屋の話は先程の話題には出さなかった。
しかし本を読むことが好きな私は、何かのきっかけでこの話題もメモに書いた筈だ。
『おじいちゃん店主だから仕事が出来なくなったら閉店になりますかね。困るな』と。
「え、若本さん……」
驚きに目を見開かせると、若本さんは職場で見たことも無いような柔らかい笑みを浮かべて、それからスーツの内ポケットからメモ帳を取り出すと何かを書き始めた。
書き終わったところで、ビリっと紙の破れる音がして、そしてメモを差し出される。
『久しぶりですね、お元気でしたか』
そう書かれた文字は、あの頃と変わらなかった。
お隣さんは顔も知らない文通相手