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お隣さんは顔も知らない文通相手

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 友人達が就職活動に焦る中で、「優香は良いよね、もう決まってて」と言われることが多く、その場では謙遜したが少しだけ優越感を感じていた。

 学校が終わるとマンションの近くのコンビニでアルバイトをして、帰りに廃棄の商品を1つ2つ貰って帰るのが日課だった。
 あの日もいつも通りにアルバイトをして、廃棄の籠に入っていたプリンアラモードを貰って帰った。部屋の前でカバンの内ポケットから鍵を取り出し、そして中に入ると、そこには郵便物があった。
 
 私の住んでいたマンションは築3年の新しい物件だったのだが、郵便受けは各部屋のドアに付いており、誰でもマンションの部屋の前までは来られるという、女の子の一人暮らしという目線で考えると防犯意識の低い造りだった。
 しかし防犯カメラが取り付けられており、そのお陰もあってか入居するまでに一度も問題が起きたことはないらしい。

 部屋の話はここまでとして、玄関に滑り落ちている郵便物を手に取る。
それはただのダイレクトメールだったのだが、そこには黄緑色の付箋が貼られており、『203号室に入っていました』と書かれていた。
 
私の部屋は204号室だ。
 つまり、誤って203号室に入ってしまった郵便物を隣の住人がわざわざ付箋を付けて入れてくれたらしい。

 入れ間違う、ということはよくあることだった。
 防犯意識なのかどうかは分からないが、私が入居した当初から近隣住民は表札というものを付けておらず、隣に誰が住んでいるのか分からない状態で、一人暮らしが初めてである私にとってはそれが常識なのかと思い、2年目に突入した今でも表札は付けていない。
 そのせいもあって、時折指定の部屋番号とは違う郵便物が舞い込んでくる。
 しかし今回のように付箋でわざわざ教えてくれることは今まで無かった。

 筆跡から男性であることは分かる。
 そうか、203号室には男性が住んでいるのか。

 今時マンションの隣に挨拶に行くなんてことはする筈もなく、お隣さんとは疎遠である。
 どんな人が住んでいるのか、それが男なのか女なのか、年齢は近いのか上なのか、何一つとして情報は無い。
 時折廊下ですれ違うことはあっても、それがこのマンションの住人なのか、遊びに来た友人なのかも分からない。

 そんな状況の中で、初めてお隣さんの情報が舞い込んできたのだ。
 こういう場合はご丁寧に付箋まで付けてくれたことに感謝の言葉でも伝えるべきなのだろうか。

お隣さんは顔も知らない文通相手

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