ヤドカリ投資とは?メリットやデメリットを理解し適切な運用をおこなおう

空室リスクが少なく、運用方法を柔軟に決められる点がメリットですが、デメリットやリスクもあります。どのようなデメリットやリスクがあるのかを把握しておかなければ、ヤドカリ投資の成功から遠ざかってしまうかもしれません。
そこで本記事では、ヤドカリ投資を詳しく解説します。メリットやデメリット、成功させるポイントなどもまとめていくので、ぜひ参考にしてください。
記事の目次
「ヤドカリ投資」とは?

ヤドカリ投資は、自宅を購入し、一定期間住んだあとに住み替えをおこないながら収益を得ていく不動産投資の手法。ヤドカリが成長に合わせて貝殻を変えていく姿に似ていることから、このように名付けられました。
ヤドカリ投資は、特に生活環境の変化や家族の増減などで住み替えを検討している人に適しています。また、同時に不動産を活用して収益を上げる方法としても注目されています。
住み替えを検討する理由は人それぞれです。例えば、子どもの成長にともない広い家が必要になったり、逆に独立後にはコンパクトな家に移り住みたいなどのケースが考えられるでしょう。その際に、ただ住み替えるだけでなく、これまで住んでいた家を資産として運用し、売却益や家賃収入を得られれば、次の家を購入するための資金に充てられるでしょう。
ヤドカリ投資で収益を得る方法には、「売却」と「賃貸」の2つがあります。これらの方法は、それぞれ一般的な不動産投資とは異なる点も多いため、特徴やリスク、メリットとデメリットを十分に理解したうえで活用することが重要です。次の章では、それぞれの収益を得る仕組みを詳しく解説します。
ヤドカリ投資で収益を得る仕組み

ヤドカリ投資で収益を得るための具体的な手法には、「売却」と「賃貸」の2つがあります。ここでは、それぞれの方法を詳しく説明します。
自宅を売却して収益を得る場合
まず、自宅を売却して収益を得る方法から見ていきましょう。売却して収益を得る方法は、購入時よりも高い価格で物件を売却することで、売却益、いわゆるキャピタルゲインを得るものです。この方法では、売却益を次の住み替えの資金として活用でき、結果として住み替えにともなう経済的な負担を軽減することが可能です。
ただし、売却益を得るためには、購入時の価格よりも売却時の価格が高くなければなりません。これは、簡単なことではありません。物件の将来性や市場の動向、売却のタイミングを正確に見極める能力が必要。
例えば、購入時には人気の高かったエリアが、時間が経つにつれて競争が激化し、物件価格が下がる可能性もあります。そのため、売却益を確保するためには、慎重な市場分析と適切なタイミングがポイントです。
また、物件を高く売却するためには、適切なメンテナンスやリフォームが必要になることもあります。メンテナンスやリフォームなどにかかる費用を、あらかじめ計算に入れておくことも重要です。
例えば、築年数が経過している物件の場合、売却前に内装をリフォームすることで、売却価格を引き上げられるかもしれません。ただし、そのリフォーム費用が売却益を圧迫しないよう、注意が必要でしょう。
自宅を賃貸にして収益を得る場合
自宅を賃貸にする方法は、まず住宅ローンを完済したあとに物件を賃貸に出し、家賃収入いわゆるインカムゲインを得ることです。家賃収入は、住み替え後の住宅ローンの返済や生活費の補填に充てられ、安定的な収益源となります。
この方法のメリットは、賃貸物件としての運用を開始する時点で住宅ローンを完済しているため、家賃収入がローンの返済に左右されない点です。たとえ一時的に空室が発生した場合でも、ローンの返済に追われることがないため、リスクを抑えた投資が可能でしょう。
しかし、賃貸物件として運用するためには、物件が賃貸需要の高いエリアに位置しているか、間取りが需要に合っているかなどを慎重に見極める必要があります。例えば、ファミリー層に人気のあるエリアであれば、3LDKや4LDKなどの広い間取りの物件が有利になるでしょう。逆に、都心部の単身者向けのエリアであれば、1Kや1LDKなどのコンパクトな間取りが求められます。
また、賃貸物件としての運用には、物件の管理費用や固定資産税の支払いが必要になります。上記の固定費は、家賃収入の一部を消費するため、収支計算をしっかりおこない、収益が確保できるように管理することが重要です。
ヤドカリ投資のメリット

本章では、ヤドカリ投資のメリットを解説します。
住宅ローンが利用できる
ヤドカリ投資では、投資用の不動産を購入するのではなく、自分が住むための自宅を購入します。そのため、一般的な不動産投資ローンではなく、低金利の住宅ローンを利用することができます。低金利の住宅ローンでは、一般的な不動産投資ローンと比べて、はるかに有利な条件で融資を受けられる点がメリットです。
さらに、住宅ローンには「住宅ローン控除」という税制上のメリットもあります。住宅ローン控除とは、最長13年間にわたり、年末時点のローン残高の最大0.7%が所得税や一部の住民税から控除される制度。例えば、年末時点のローン残高が3,000万円であれば、その年の所得税から最大21万円が控除されます。所得税から引き切れなかった場合は、残額が住民税から控除されます。低金利の住宅ローンを利用できるだけではなく、税金の面での控除が受けられるのも魅力的です。
ただし、住宅ローン控除を受けるためには、物件の築年数や広さ、購入者の収入など、いくつかの要件を満たす必要があります。住宅ローン控除の要件に当てはまっているかを、物件購入前にしっかり確認しておくことが重要です。
借金を返済したあとに賃貸経営を開始するためリスクが低い
ヤドカリ投資での賃貸運用は、住宅ローンを完済したあとにおこなうことが前提です。そのため、ローン返済のプレッシャーを感じることなく、賃貸運用が可能になります。多くの不動産投資では、得た家賃収入で不動産投資ローンを返済しなければなりません。一方、ヤドカリ投資の場合は、住宅ローンの完済後に賃貸運用を始めるため、家賃収入がそのまま利益となります。
また、住宅ローンの完済後に賃貸運用を始めることで、家賃収入が将来的な生活費や新たな投資資金として活用できることも大きな魅力です。特に、退職後の年金生活を補完するための収入源として有効です。年金だけでは生活費が不十分な場合でも、家賃収入があれば安定した生活を送れるでしょう。
自分が住むための住居であるため家賃が不要
ヤドカリ投資のメリットは、自分が住むための不動産を購入するため、投資開始前に家賃を支払う必要がない点です。例えば、賃貸物件に住みながら不動産投資をおこなう場合、投資物件の不動産投資ローンを返済しつつ、自宅の家賃も支払う必要があります。
しかし、ヤドカリ投資では、自宅の住宅ローン返済をおこなうだけでよく、家賃を支払う負担がありません。
さらに、ローンを完済すれば、その不動産は資産として手元に残ります。毎月の家賃支払いが不要であること、そして最終的に自分の資産となる不動産を手に入れられる点は、ヤドカリ投資の魅力の一つです。
空室リスクがない
通常の不動産投資では、賃貸運用をおこなう際に空室が発生すると、家賃収入が途絶えるため、収益が下がるリスクがあります。最悪の場合、自己資金から不動産投資ローンの返済をおこなわなければならない事態に陥ることも。
しかし、ヤドカリ投資では、対象物件が自分の住居であるため、空室リスクが存在しません。そのため、収益性が安定しやすくなる点も大きなメリットです。
売却時に譲渡所得控除を受けられる
ヤドカリ投資として自宅を売却する場合、居住用物件の売却となるため売却益が出ても、一定の条件のもと最大3,000万円の譲渡所得控除を受けることができるのもメリットの一つでしょう。
参考:国税庁「マイホームを売ったときの特例」
ヤドカリ投資のデメリットとリスク

次に、ヤドカリ投資に潜むデメリットやリスクを説明します。メリットだけではなく、デメリットも理解したうえで、自分に適した投資方法かを判断することが重要です。
物件選びが重要になる
ヤドカリ投資では、物件選びは成功の鍵を握る重要な要素です。住み替え後に売却する場合や賃貸に出す場合でも、物件が高い価値を保つかが収益に大きく影響します。特に、立地条件や物件の将来性を見極めることが重要です。例えば、開発が進んでいるエリアや将来的にインフラ整備が予定されているエリアは、物件価格が上昇する可能性が高くなります。一方、人口減少や地域経済の衰退が予想されるエリアでは、物件価値が下がるリスクも考えられるでしょう。
また、築年数や間取りも物件選びの際に考慮すべきポイントです。特に、家族構成やライフスタイルの変化に対応できる柔軟性が求められるため、広さや部屋数、設備の充実度なども重要な要素となります。
売却時に税負担がある
自宅を売却して収益を得る場合、売却益に対して所得税や住民税が課されることも。これはキャピタルゲイン課税と呼ばれるもので、短期間での売却ほど税率が高くなります。具体的には、購入から5年以内に売却した場合は短期譲渡所得として、5年を超える期間保有して売却した場合は長期譲渡所得として扱われます。
短期譲渡所得の税率は高く、最大で39.63%(所得税30%、住民税9%、復興特別所得税0.63%)が課されることも。一方、長期譲渡所得の場合は税率が軽減され、最大で20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)となります。
そのため、物件を売却する際には、売却時期を慎重に選び、ヤドカリ投資のメリットで説明した「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」などを活用しながら税負担を最小限に抑えることが重要。また、売却益が発生する場合は、事前に税理士などの専門家に相談し、最適な税務対策を講じることも必要です。
住み替え時にコストがかかる
住み替えをおこなう際には、引越し費用や新しい住居の購入費用、場合によってはリフォーム費用などが発生します。住み替え時のコストは、住み替えを繰り返すたびに積み重なり、最終的には大きな出費となる可能性があります。
さらに、売却時には仲介手数料や登記費用なども必要となり、あらかじめ上記の出費を計算に入れておかなければなりません。必要なコストを無視してしまうと、期待したほどの収益を得られないリスクがあるため、事前に十分な予算計画を立てておくことが重要です。
収益性があまり高くない
ヤドカリ投資では収益性があまり期待できないのもデメリットです。ヤドカリ投資は居住していた自宅を運用し収益を上げるものです。そのため、新築物件と比較すると、そこまで高い収益性は期待できないでしょう。
また、一般的な不動産投資のように複数の物件を同時に運用するわけではありません。数が限られてしまうからこそ、収益が期待できないのも理由に挙げられます。
ヤドカリ投資を成功させるためのポイント

ヤドカリ投資を成功させるためには、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。ここでは、5つのポイントを解説します。
市場動向を把握する
ヤドカリ投資を成功させるためには、不動産市場の動向を常に把握しておくことが大切です。特に、物件を売却するタイミングや、賃貸需要が高まる時期を見極めることが重要なポイント。不動産市場は経済状況や金利の動向、人口の増減など多くの要因に影響を受けるため、これらの変動を敏感に察知し、適切かつ迅速に行動しなければなりません。
例えば、低金利時代には住宅ローンの借り入れが増加し、物件価格が上昇する傾向があります。また、都市部への人口集中が進むと、都心部の物件価値が上昇することが期待されます。
一方で、金利が上昇した場合や人口減少が進んでいる地域では、物件価格が下落するリスクも考えられるでしょう。したがって、物件の購入や売却、賃貸開始のタイミングを見極めるためには、市場の動向を常にチェックし、適切な判断を下すことが重要なのです。
長期的な視点で資産形成をおこなう
ヤドカリ投資は、短期間で大きな利益を得ることを目的とするのではなく、長期的な視点で資産を形成していくことが重要です。
物件の売却益や家賃収入は、時間をかけて積み上げていくものであり、一度に大きな利益を得ることは難しいものです。むしろ、安定した収益を得ながら、資産を少しずつ増やしていくことがヤドカリ投資の成功につながるでしょう。
例えば、住宅ローンの返済期間中は、賃貸運用をおこなわず、自分で住みながらローンの返済を進めます。その後、住宅ローンを完済した時点で賃貸に出し、家賃収入を得ることで、次の物件の購入資金や生活費として活用できるでしょう。
物件を慎重に選定しメンテナンスをおこなう
ヤドカリ投資では、物件の選定が重要な要素の一つです。特に、将来的に賃貸運用を考えている場合は、賃貸需要の高いエリアや間取りの物件を選ぶことが重要です。
また、物件のメンテナンスも怠らないようにしましょう。定期的な点検や修繕をおこなうことで、物件の価値を維持し、将来的な売却や賃貸運用で有利な条件を確保できるでしょう。
例えば、古くなった設備の交換や外壁の補修、内装のリフォームなどです。リフォームをおこない、物件の状態を常に良好に保つことで、賃貸需要を高められるでしょう。
また、物件の劣化を放置してしまうと、将来的に大規模な修繕が必要になり、その分コストがかさむリスクもあります。したがって、こまめなメンテナンスをおこない、物件の価値を維持・向上させることが重要なポイントです。
税務知識を学び専門家に相談する
ヤドカリ投資では、税務上の知識も重要です。先述のとおり、物件の売却益には税金が課されるため、税負担を最小限に抑えるための戦略を立てることが必要です。
例えば、売却時期を5年を超える時期にずらすことで、税率を軽減することが可能。
また、家賃収入に関しては、確定申告が必要となります。所得税や住民税、さらには固定資産税の申告・納税が必要なため、税務処理の基本的な知識を学んでおいたほうがよいでしょう。
特に、青色申告は白色申告より控除額を増やせるため、節税対策につながります。
税務処理に不安がある場合や、わからないところがある場合は、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。確定申告や税に関しての知識が豊富なため、自分に合った適切なアドバイスをしてくれます。
適切に申告できなければ、書類に不備が出たり、申告をし直さなければならなかったりなどの手間がかかります。専門家に相談しながらおこなうことで、書類の不備などのミスを防げるでしょう。
また、税務処理に関する手続きを代行してもらうことで、時間と労力を節約できる点も、専門家を活用するメリットの一つです。
ライフプランを確認する
ヤドカリ投資は、ライフプランと密接に関連しているため、自身のライフステージや将来の計画と照らし合わせて、無理のない範囲でおこなうことが大切です。例えば、子どもの進学や、退職後の生活費など、将来的に大きな出費が予想されるとしましょう。大きな出費が必要なタイミングに間に合うよう物件の売却や賃貸運用の開始を予定することで、必要な支出を家賃収入で確保できる可能性が高くなります。
また、住み替えを繰り返すことで得られるメリットは、ライフステージごとに異なります。若いうちに住み替えをおこなうことで、さまざまな地域での生活を経験し、そのなかで自分に最適な場所を見つけられるでしょう。
しかし、ライフステージや家族構成の変化にともなった住み替えは、頻度やタイミングを慎重に検討する必要があります。無理な住み替えや過剰な投資は、家庭生活に支障をきたす恐れがあるため、自分自身と家族の生活を最優先に考えたうえで、投資計画を立てることが重要です。
まとめ
ヤドカリ投資は、住み替えと賃貸経営を組み合わせたユニークな不動産投資法です。リスクを抑えながら資産を増やし、将来的な生活費や老後資金を確保するための手段として、多くの人に注目されています。
しかし、ヤドカリ投資には物件選びや売却時の税負担、住み替え時のコストなど、いくつかのデメリットやリスクも存在します。リスクを理解し、自分のライフプランと照らし合わせて適切な投資戦略を立てることが重要です。
また、専門家のアドバイスも得ながら、長期的な視点での資産形成を目指すことで、ヤドカリ投資を成功させられるでしょう。

執筆者
民辻 伸也
宅地建物取引士、
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学を卒業し、投資用不動産会社に4年勤務後、選択肢を広げて一人ひとりに合わせた資産形成をおこなうため、転職。プロバイダー企業と取引し、お客様が安心感を持って投資できる環境づくりに注力。不動産の仕入れや銀行対応もおこなっている。プライベートでも、自ら始めた不動産投資でマンション管理組合の理事長に立候補。お客様を徹底的にサポートできるよう、すべての経験をコンサルティングに活かしている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ