個人事業主のアパート経営に必要なことは?メリットと注意点を徹底解説

本記事では、個人事業主によるアパート経営のメリットと注意すべきポイントを詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
記事の目次
個人事業主としてアパート経営をおこなうメリット

個人事業主としてアパート経営をおこなうことで、経費計上可能な項目が増加したり、税率が軽減されたりするなどのメリットがあります。以下で詳しく見ていきましょう。
経費の項目が増える
火災保険料や減価償却費などを経費として計上できることが大きな特徴です。経費の項目が増えることで課税所得額を抑えられ、所得税や住民税の軽減につながります。
また、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出した個人事業主は、経営を補助する親族への給与を必要経費として申告できます。副業でアパート経営をおこなう場合、1人での運営が困難な場合もあるでしょう。
その際、妻や子どもなど親族の働きに対して報酬を支払い、経費として計上できる点が青色申告の特徴です。
青色申告で控除を受けられる
個人事業主として不動産所得を得ている方は、青色申告をおこなうことで特別控除や青色事業専従者給与などの制度を利用できます。青色申告特別控除は、毎年3月15日までに必要書類を提出することで、55万円〜65万円、または10万円の控除を受けられる点がメリット。
ただし、2022年分(令和4年分)以降で65万円の控除を受けるためには、電子帳簿の要件を満たし、電子データでの保存と届出書の提出が必要です。青色申告は確定申告の一種であり、通常2月16日〜3月15日の期間内に手続きをおこなう必要があります。
アパート経営が小規模なら税率が低くなる
事業規模が小さい場合、所得税率が低くなる傾向があります。所得税は超過累進税率が採用されており、5%~45%の範囲で税率が決定されます。
例えば、課税対象額が400万円の場合、税率は20%です。42万7,500円が控除され、所得税は37万2,500円となります。
なお、2037年分(令和19年分)までの確定申告では、復興特別所得税の申告・納付も必要。復興特別所得税の課税率は基本的に、基準所得税額の2.1%となります。
損益通算を活用できる
副業でアパート経営をおこなう場合、損益通算を利用できる点がメリット。損益通算とは、ある事業で赤字が生じた場合に、他の所得と合算して課税対象額を再計算する方法です。
対象となる所得は、不動産所得や事業所得、譲渡所得、山林所得の4種類。
例えば、事業所得が800万円の黒字、不動産所得が200万円の赤字の場合、損益通算が利用できるため、課税対象額は600万円となります。
損益通算をすることで、所得税の税率が変動した場合、確定申告をすると所得税の一部が還付されます。
アパート経営のリスク

アパート経営は長期的な事業であり、建物や設備の劣化、空室率の上昇などのリスクへの対策も重要です。以下では、主なリスクと対処法を説明します。
空室リスク
入居率は家賃収入に直結する重要なポイントです。空室が長期化すると家賃収入が減少するため、アパート経営を開始する時から、入居率を向上するための計画を立てておく必要があります。
空室率を抑えるには、需要に合わせた間取りや適切な家賃設定がポイント。市場分析や間取り設計には専門知識も必要のため、不動産管理会社に相談するのも一つの手です。
老朽化リスク
アパートは経年により建物や設備が劣化するため、定期的なメンテナンスが必要です。原状回復費用や修繕費は経費として計上が可能。
1回の支出が20万円未満、または3年以内の周期で必要な修繕は、経費として計上できます。
老朽化が進むと入居者を獲得する際の障害となり、新築物件との競争で不利になります。空室対策として、大規模リフォームや家賃見直しなどの対策を検討しましょう。
自然災害リスク
地震や落雷などの自然災害でアパートが損傷した場合、修理費用の負担や居住性低下などの問題が発生する可能性があります。
自然災害リスクを軽減するためには、火災保険や地震保険への加入が有効。火災保険や地震保険に加入しておくことで、万が一被災しても、修理費用を抑えられ、迅速な修復にも対応が可能です。
落雷や台風、雪害などは、住宅火災保険や住宅総合保険でカバーできます。住宅総合保険はより広範囲の補償を提供しており、飛来物による建物破損や台風による水害なども対象です。
自然災害は予測が困難なため、保険に加入しておき、リスク対策に努めましょう。
個人事業主としてアパート経営する際の個人事業税

アパート経営を個人事業主としておこなう場合、税制面でのメリットが多くありますが、注意すべき点もあります。特に重要なのが「個人事業税」です。
事業的規模でアパート経営をおこなう個人事業主には、所得税とは別途「個人事業税」が課税されます。一般的に、賃貸可能な部屋数が10室以上の場合、適用される税率は5%。
個人事業税は以下の式で算出されます。
個人事業税 =(所得金額 - 事業主控除額)×5%
ただし、個人事業税には最大290万円の事業主控除があるため、年間所得が290万円以下の場合は課税されません。
個人事業主として開業後は、所得によっては個人事業税があることも念頭に置き、経営を進めましょう。
個人事業主のアパート経営で法人化するタイミング

アパート経営の所得額によっては、法人化が有利な場合もあります。
個人事業主の場合、所得税は累進課税制度が適用され、所得が増えるほど税率が上昇し、所得税と住民税を合わせると最大55%に達することも。
一方、法人の場合は所得税の代わりに法人税を納付します。法人税は比例税率制度が適用され、税率がほぼ一定です。法人が支払う税金の総率は、法人税を含めて約30~35%です。
そのため、所得額によっては個人事業主として所得税を納めるより、法人化して法人税などを支払うほうが税負担を軽減できる可能性があります。
一般的に、課税所得が900万円程度を超える場合は、法人化すると節税効果が期待できるとされています。一つの目安として頭に置いておくとよいでしょう。
個人事業主としてアパート経営を始める際の手順

アパート経営で効果的に収益を得るためには、アパートの場所や設計、資金調達などさまざまな準備が必要です。ここからは、アパート経営をおこなう際の手順を以下で解説します。
- STEP 1目的を明確にする
- STEP 2アパート経営の知識を習得する
- STEP 3資金計画を立てる
- STEP 4事業的規模を確認する
- STEP 5土地やアパートを探す
- STEP 6アパートローンの審査を受ける
- STEP 7アパートを購入する
- STEP 8管理会社を決める
- STEP 9アパート経営を始める
それぞれ詳しく解説します。
step1:目的を明確にする
事業としてアパート経営をおこなう場合、収益確保や税制優遇などの経営目標を明確にすることが重要です。アパートの購入・運営には多額の費用がかかるため、目標を明確にしておかなければ、途中でつまずいてしまう可能性があります。
また、経営効率を高めるには、空室率対策が必要不可欠。入居率が高ければ、家賃収入が増えたり、相続税評価額にもよい影響があるなどさまざまな利点があります。まずは入居率を高める、もしくは維持するための計画を立てましょう。
step2:アパート経営の知識を習得する
安定した家賃収入を維持するには、周辺エリアの人口統計や競合物件の家賃相場、間取りなどを理解し、経営に反映させることが重要です。ターゲット層に応じて、敷金・礼金の設定やインターネット環境の整備など、賃貸条件や設備を適切に選択しましょう。
アパート経営の知識を学ぶことで、アパートの購入や改装、必要な投資に向けた資金計画を自分自身で立てやすくなります。周りに頼りきりでは、万が一トラブルが起きた際に、迅速に対応できないかもしれません。しかし、アパート経営の知識があれば問題が生じても、スムーズに自分で対応できます。
トラブルに対する迅速な対応は、入居者の満足度や入居率にも関わるため、事前に学んでおくとよいでしょう。
step3:資金計画を立てる
ターゲット層や導入設備が決定したら、建築または改装、設備工事などの資金計画を立てましょう。
計画時には、税金や修繕費、周辺相場を考慮して家賃を設定することをおすすめします。収益は家賃と入居率に左右され、保険料や管理費などの経費も発生するためです。
また、アパートローンを利用する場合、自己資金をどのくらい出せるか、融資額なども事前に決めておきましょう。一般的に、年収の7~10倍程度が融資限度額とされているので、一つの目安として覚えておくと便利です。
step4:事業的規模を確認する
事業的規模とは、不動産賃貸が事業として認められるかを判断する基準です。アパート経営では、通常10室以上の運用で事業とみなされます。
一戸建てとアパートを合わせて運営する場合、一戸建て1棟をアパート2部屋分として計算します。
例えば、アパート6部屋と一戸建て2棟で経営する場合、アパート10部屋分に相当し、個人事業主としての条件を満たすことになります。
事業的規模でアパート経営をする際は、青色事業専従者給与や青色申告特別控除の利用、経費項目の拡大などのメリットがあるので、ぜひ検討してみてください。
step5:土地やアパートを探す
次にアパートを建てたい土地や、購入したいアパート探しに移りましょう。家賃収益を安定させるためには、需要が高く、空室リスクの少ないアパートや土地を選ぶことが重要です。
不動産情報サイト アットホームでは、駅からのアクセスや価格、利回りなどから絞り込めます。さまざまなアパートを取り扱っているので、ぜひ参考にしてみてください。
step6:アパートローンの審査を受ける
購入する土地や物件が決まったら、次はアパートローンの審査です。
金融機関の探し方には、自分で探す方法と不動産会社が提携している金融機関を紹介してもらう方法の2種類があります。自分で探す場合は複数の金融機関に候補を絞って、比較検討しながら選びましょう。
不動産会社から紹介してもらう場合は、提携している金融機関しか紹介してもらえないことがほとんどなので、選択肢が少ない傾向にあります。
ただし、初めて借り入れする際は、サポートも期待できるため、不動産会社に紹介してもらうほうがよいでしょう。
step7:アパートを購入する
アパートローンの審査に受かったら、いよいよ物件を購入します。購入する際は、「重要事項説明」を受けてから売買契約を結ぶ必要があります。
重要事項説明とは、宅地建物取引士が買主に必ずおこなう必要がある物件の説明のことです。説明を聞いて問題がなければ、売買契約書を結びましょう。
このタイミングで、売主に手付金を支払う必要があります。手付金の目安は売買代金の5~10%です。
step8:管理会社を決める
売買契約を結んだら、次に管理会社を決めます。不動産の管理には主に「賃貸管理」と「建物管理」の2種類があります。
賃貸管理は、入居者の募集や賃貸の契約手続きなどで、建物管理は設備の点検やメンテナンスの手配など。一棟投資をする場合は、管理会社がすべて一括で対応することがほとんどなので、信頼できる会社を選ばなければなりません。一つの会社ではなく、複数の会社から比較、検討して信頼できる会社を見つけましょう。
アパートの管理が適切かどうかは、入居者の満足度や空室率にも大きく影響するため、管理会社選びには時間をかけて慎重に検討しましょう。
step9:アパート経営を始める
ここまでの準備や手続きが完了したら、アパート経営を始めていきます。アパート経営を成功させるために大切なのは、アパートの管理を徹底的におこなうことです。
建物や賃貸の管理会社と密接に連携を取り、入居者の興味を惹くような、また入居者の満足度を上げられるようなアパートにすることが大切です。
個人事業主としてアパート経営をおこなう際の主な経費

個人事業主でアパート経営をおこなう際、適切に経費を計上することで節税にもつながります。個人事業主と法人では経費計上可能な項目に違いがあるため、経営を始める前に経費関連の情報を把握しておくことが重要です。
経費計上の可否は「費用とアパートの関連性」が基準です。アパートに直接関係する修繕費や広告費は経費計上が可能ですが、アパートローンの元本は対象外となるため、注意してください。
ただし、経費計上には明細の保存が必須です。領収書などは丁寧に管理してください。
以下で、経費計上可能な項目を解説します。
税金
アパート取得・経営に関連する税金は経費計上可能です。固定資産税や都市計画税、不動産取得税、印紙税、事業税などが該当します。ただし、アパート経営に直接関係する部分のみが対象です。法人税や所得税など、アパート経営と無関係の税金は経費計上できません。また、不動産取得税や固定資産税でも、アパート経営に関係しない部分は経費対象外です。
管理委託料
不動産管理会社への業務委託費用は経費計上可能です。管理会社からの明細を確認し、経費を把握しましょう。
また、共用部分の清掃や日常的な設備メンテナンス、入居者対応などの委託費用は、確定申告で経費として処理できます。
保険料
アパートの火災保険や地震保険などの保険料も経費計上が可能です。アパートの一部を賃貸以外の目的で使用している場合、床面積や居住用割合で按分して経費計上額を算出。
複数年契約の場合、1年分の保険料を算出して経費計上します。例えば、5年で30万円の契約なら、年間6万円が経費となります。
減価償却費
アパートの建物は減価償却資産に分類され、築年数にともない資産価値が低下します。構造によって耐用年数が異なり、木造は22年、鉄筋コンクリート造は47年、鉄骨造は骨格材の厚みによって差があるものの、19年~34年程度が一般的です。
減価償却費の計算式は次のとおり。
取得価額 × 償却率 × 使用月数 ÷ 12
償却率は定額法で定められ、「1 ÷ 耐用年数」で概算できます。
修繕費
アパートの維持管理に必要な費用で、外壁や設備のメンテナンス、退去後の原状回復などが含まれます。ただし、経費計上するには条件があります。
- 1回の修理・改良費用が20万円未満であること
- または、修繕費か資本的支出か不明確な場合は60万円未満もしくは、アパートの前年末取得価額の約1割以下であること
新規設備の追加や大規模改装は資本的支出として扱われるため、修繕費とは区別されます。
水道光熱費
アパート維持管理に使用した水道光熱費は経費計上が可能です。共用部分の電灯や水道、エレベーターなどが該当します。電気や水道、ガスも個別に計上が可能。
アパートの一部を賃貸以外で使用している場合、経営用とそれ以外を按分して経費を算出しなければなりません。按分基準は設定者次第ですが、使用時間や日数など明確な基準を用いて計算することをおすすめします。
広告宣伝費
アパートの募集広告の印刷や不動産会社のWebサイト掲載費用は広告宣伝費として経費計上できます。一般的に、広告宣伝費は家賃1カ月分程度になることが多いですが、使用媒体や広告会社によって異なります。
交通費
アパート経営に関連する移動で発生した交通費は経費計上が可能です。電車代やタクシー代、駐車場料金、燃料費などが旅費交通費として計上できます。
ただし、経費計上には用途を証明する領収書や出金伝票などの書類が必要です。
まとめ
本記事では、個人事業主としてアパート経営をおこなう際のメリットや注意点を解説しました。アパート経営をおこなうことで、経費計上できる項目が増えたり、青色申告ができるなどのメリットがあります。
しかし、個人事業税があったり、所得額によっては法人化するほうがメリットが大きいなど、注意すべき点もあります。初めてアパート経営をする方は、迷ったことやわからないことがあれば、すぐに不動産会社などの専門家に相談するとよいでしょう。

執筆者
民辻伸也
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学を卒業し、投資用不動産会社に4年勤務後、選択肢を広げて一人ひとりに合わせた資産形成をおこなうため、転職。プロバイダー企業と取引し、お客様が安心感を持って投資できる環境づくりに注力。不動産の仕入れや銀行対応もおこなっている。プライベートでも、自ら始めた不動産投資でマンション管理組合の理事長に立候補。お客様を徹底的にサポートできるよう、すべての経験をコンサルティングに活かしている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ