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長期譲渡所得と短期譲渡所得の計算方法や区分と節税のポイントを解説!

長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いや計算方法を解説します
不動産や株式などの資産を売却して利益を得ると、譲渡所得が発生します。その際、譲渡所得には、長期譲渡所得と短期譲渡所得があることに気が付くでしょう。事業をおこなう方にとって、これらの区分や税務上の扱いを理解することは大変重要です。

本記事では、長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分や具体的な計算方法、そして節税のポイントを解説します。

長期譲渡所得と短期譲渡所得とは?

長期譲渡所得・短期譲渡所得とは何でしょうか
長期譲渡所得・短期譲渡所得とは何でしょうか

長期譲渡所得と短期譲渡所得は、譲渡所得の区分です。譲渡所得とは、個人が財産を譲渡(売却や交換など)した際に得る所得のこと。財産には、土地や建物、株式、ゴルフ会員権などがあります。

譲渡所得は、譲渡した財産を所有していた期間によって2つに分けられます。それが長期譲渡所得と短期譲渡所得です。

譲渡所得区分 資産の所有期間
短期譲渡所得 5年以下
長期譲渡所得 5年を超える

売却(譲渡)した年が、所有してから何年経過しているかで、長期譲渡所得か短期譲渡所得のどちらになるかを判断します。

譲渡所得を区分する所有期間の考えかた

長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分は、財産を所有していた期間でおこなうとお伝えしましたが、期間のとらえかたは特殊です。所有年数のカウントは、売却した年の1月1日時点で、その不動産を何年所有していたかに基づいておこないます。例として、2018年4月30日に購入した物件がある場合、いつ売却すれば長期譲渡所得とみなされるかを確認していきましょう。

2018年4月30日から5年経過した2023年5月1日に物件を売却する場合。暦のうえでは、丸5年経過したことになりますが、譲渡所得の期間の捉えかたでは異なります。

売却した年の1月1日時点で何年所有していたかを考慮するため、このケースでは2023年の1月1日時点で、所有期間は4年9カ月です。そうなると、2023年中に売却する場合は、短期譲渡所得の扱いになります。長期譲渡所得として扱うためには、2024年1月1日以降に売却しなければなりません。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の計算方法は?

長期譲渡所得と短期譲渡所得の税額はどのように計算するのでしょうか
長期譲渡所得と短期譲渡所得の税額はどのように計算するのでしょうか

長期譲渡所得と短期譲渡所得では、税率が大きく異なります。では、それぞれ税率はいくらか、どのように計算するのかをみていきましょう。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率

  長期譲渡所得 短期譲渡所得
税率 20.315% 39.63%
内訳 所得税:15.315%
住民税:5%
所得税:30.63%
住民税:9%

※2013以降、2037年までの税率には、復興特別所得税の2.1%が上乗せされます

比較すると、長期譲渡所得と短期譲渡所得では、税率が大きく異なります。短期譲渡所得とみなされる場合、長期譲渡所得よりも約2倍の税金を支払わなければなりません。売却する場合は、どちらの税率が適用になるタイミングなのか、時期を見極める点が重要です。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の計算式

長期譲渡所得や短期譲渡所得を計算する方法を紹介します。

譲渡所得の把握

譲渡所得は、不動産を売却した時の金額(譲渡収入金額)から、はじめに物件を購入した金額(取得費)と売却時の諸費用(譲渡費用)を差し引いて計算します。簡略的に記載した計算式は以下のとおり。

譲渡所得 =譲渡収入金額 – 取得費 + 譲渡費用

譲渡収入金額には、物件の売却代金と固定資産税・都市計画税の清算金が含まれます。譲渡費用は、物件売却時にかかった仲介手数料や印紙税など、必要経費の合計額です。取得費は、物件の購入代金に仲介手数料や税金などの諸経費を加え、建物の減価償却費を差し引いた金額。

なお、減価償却費は、建物などの資産の取得費用を定められた年数で分割し、毎年計上する費用です。土地は減価償却の対象外ですが、建物は減価償却費を差し引く必要があります。減価償却費の計算方法は以下のとおり。

減価償却費 = 建物の取得価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

償却率は建物の構造(木造、鉄筋コンクリート造など)により異なり、経過年数は端数処理で6カ月以上から1年未満は1年、6カ月未満は切り捨てます。建物の取得費が不明な場合、譲渡収入金額の5%を概算取得費として適用できます。

特別控除額を差し引く

譲渡所得を算出したあと、特別控除が適用される場合は、その特別控除額を差し引き、課税譲渡所得を求めます。特別控除の種類は後述しますが、よく活用される主なものは以下です。

  • 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
  • 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例

それぞれ利用したい場合は確定申告をしますが、特例適用には書類の提出が必要です。詳細は、国税庁の公式ホームページなどを参照し、確実に申請しましょう。

税額の計算

課税譲渡所得が算出できたら、物件所有期間が5年以下なら短期譲渡所得税率(39.63%)、物件所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得税率(20.315%)をかければ、税額を求められます。

収益物件売却時に譲渡所得の計算で活用できる特別控除は?

譲渡所得の計算に使用できる特別控除には何があるのでしょうか
譲渡所得の計算に使用できる特別控除には何があるのでしょうか

本章では、譲渡所得の計算で大きな役割を果たす、特別控除を紹介しておきます。特別控除とは、一定の条件を満たした場合に、譲渡所得から一定額を差し引くことができる制度。特別控除を利用すると、譲渡所得を大幅に減らせます。特例の適用には条件があるので、正確に把握しておきましょう。

事業用資産の買換え特例

事業用資産の買換え特例とは、企業や個人事業主が事業用の資産を譲渡し、その譲渡によって得た資金で新たな事業用資産を購入する場合に適用される税制上の特例です。この特例を利用すると、譲渡による所得税や法人税の課税が一時的に繰り延べられ、資金繰りが改善される可能性があります。国税庁による特例適用の要件は以下のとおり。

  • 譲渡資産と買換資産の両方が事業用であること
  • 特定の条件を満たす資産の組み合わせであること
  • 土地の買換えの場合、面積が譲渡する土地の面積の5倍以内であること
  • 譲渡した資産を売却した年の前年か翌年に新たな資産を購入しなければならない
  • 購入後1年以内に買換えた資産を事業に使用すること

この特例を活用すると、事業用資産の効率的な運用が促進され、税負担の軽減が図れます。

相続した物件の取得費加算特例

取得費加算の特例とは、相続や遺贈で取得した不動産や株式などの財産を、相続税申告期限から3年以内(相続開始日翌日から3年10か月以内)に売却した際に、相続税の一部を取得費に加算できる制度です。これにより、譲渡所得税の課税対象となる所得が減少し、税負担が軽減される可能性があります。

取得費に加算する相続税額は以下の計算式で求められます。

取得費に加算する相続税額 = (相続不動産を売却した人の相続税額) × (売却した相続財産の相続税評価額) ÷ (その人の相続税の課税価格(債務控除前の金額))

この計算式で実際に加算される相続税額が算出され、取得費に上乗せされます。

例えば、売却するマンションの相続税評価額が1億円で、相続税額が5,000万円、相続税の課税価格が2億円の場合、取得費に加算される相続税額は以下のように計算されます。

取得費に加算する相続税額 = 5,000万円 ×1億円 ÷ 2億円 = 2,500万円

この場合、譲渡所得の計算時に取得費で2,500万円が追加されます。

※参考:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁

収益物件売却時の特例適用は注意

収益物件売却時の特例は、マイホーム売却時に使用できる特例とは異なる点に注意が必要です。例えば、収益物件売却では「事業用資産の買換え特例」と「相続した物件の取得費加算の特例」が使える点を紹介しました。

一方、マイホーム売却では、居住用財産を譲渡した場合に譲渡所得から3,000万円を控除できたり、相続した空き家を譲渡する場合も譲渡所得から3,000万円を控除できる特例が用意されています。加えて、長期譲渡所得の税率でも、保有期間が10年以上の物件では、税率がさらに安くなるなどの措置があり有利です。さらに、2つの特例を併用できるケースもあり、収益物件の控除規定とマイホームの控除規定は異なるため、注意しましょう。

長期譲渡所得と短期譲渡所得に着目した節税のポイントは?

長期譲渡所得と短期譲渡所得に着目した節税のポイントは何でしょうか
長期譲渡所得と短期譲渡所得に着目した節税のポイントは何でしょうか

これまでに、長期譲渡所得除と短期譲渡所得の違いや税率、譲渡所得控除の特例をみてきました。譲渡所得税が、長期譲渡所得か短期譲渡所得のどちらにあてはまるか、特例が適用できるかによって、課税額が大きく異なる点が理解できたでしょう。そこで本章では、これまでの情報をふまえた節税のポイントを紹介します。

物件は5年超所有してから売却する

資産を売却する際の節税ポイントは、収益物件を5年超所有してから売却することです。まず、物件を5年超えて所有すると、売却益に対する税金が「長期譲渡所得」として扱われます。長期譲渡所得の税率は、基本的に20.315%(所得税15.315%+住民税5%)で、これは5年以下所有の「短期譲渡所得」に適用される39.63%(所得税30.63%+住民税9%)よりも大幅に低いです。結果的に、5年を超えて所有するだけで、税金の負担を大きく減らせるでしょう。

控除できる費用をもれなく計上する

控除できる費用をもれなく計上する点も重要です。譲渡所得を計算する際、売却価格から取得費用や譲渡費用を差し引いたり、購入価格だけでなく購入時の手数料や登記費用、不動産取得税なども含まれることを覚えておきましょう。これらの費用は、購入時に一度支払っているため、忘れずに計上することが重要です。

さらに、リフォーム費用や修繕費用も取得費用に含まれたり、売却時の仲介手数料や広告費用、契約書の印紙代なども該当します。これらの費用を把握し、もれなく計上すると、課税対象となる譲渡所得が最小限になるでしょう。

特別控除を利用する

前章にあげた特別控除を確実に利用する点も忘れてはなりません。申告漏れがないように、まずはどのような特別控除があるかを調べ、条件に当てはまるかをよく確認しましょう。なお、申請には事前準備が必要な書類もあります。不明な点は、最寄りの税務署や税理士などに確認してみましょう。

長期譲渡所得と短期譲渡所得に関するよくある質問

本章では、長期譲渡所得と短期譲渡所得に関するよくある質問をまとめました。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いは?

長期譲渡所得と短期譲渡所得は、譲渡所得の区分です。譲渡所得とは、資産を売却した際に得る所得で、所有期間によって長期と短期に分けられます。短期譲渡所得は、不動産を5年以下で所有して売却した場合に適用され、税率は高め。一方、長期譲渡所得は、5年を超えて所有してから売却した場合に適用され、税率が低くなります。

所有期間の計算は、売却年の1月1日時点での所有年数が基準。仮に、2018年4月30日に購入した物件を2023年5月1日に売却すると、2023年1月1日時点では所有期間が4年9カ月となり、短期譲渡所得になります。長期譲渡所得として扱うためには、2024年1月1日以降に売却しなければなりません。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率は?

長期譲渡所得の税率は20.315%(所得税15.315%+住民税%)で、短期譲渡所得の税率は39.63%(所得税30.63%+住民税9%)です。譲渡所得は、物件売却時の金額から取得費と売却費用を差し引いて計算します。

取得費は購入代金、仲介手数料、税金、減価償却費など。計算式以下となり

譲渡所得 = 譲渡収入金額 - 取得費 + 譲渡費用

譲渡所得から特別控除を差し引いて課税譲渡所得を算出し、所有期間に応じた税率をかけます。

収益物件売却時に活用できる特別控除は?

収益物件売却時に活用できる特例は、事業用資産の買換え特例と相続した物件の取得費加算特例です。事業用資産の買換え特例は、企業や個人事業主が事業用資産を譲渡し、その資金で新たな事業用資産を購入する場合に適用されるもの。譲渡所得税や法人税の課税が一時的に繰り延べられ、資金繰りが改善されます。適用の要件としては、次のようなものがあります。

  • 譲渡資産と買換資産の両方が事業用であること
  • 特定の条件を満たす資産の組み合わせであること
  • 土地の買換えの場合は譲渡する土地の面積の5倍以内であること

次に、相続した物件の取得費加算特例があります。
これは、相続や遺贈で取得した不動産や株式などの財産を、相続税申告期限から3年以内に売却した際に、相続税の一部を取得費に加算できる制度。この特例を利用すると、譲渡所得税の課税対象となる所得が減少し、税負担が軽減されます。

なお、収益物件売却時の特例は、マイホーム売却時の特例とは異なる点に留意しましょう。マイホーム売却では居住用財産を譲渡する際に3,000万円の特別控除が受けられたり、長期譲渡所得の税率も10年以上保有する物件には優遇措置があります。しかし収益物件にはそのような特例や減税措置はないため、詳細を確認する点が重要です。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の節税のポイントは?

不動産を5年超えて所有して売却すると、長期譲渡所得として扱われ、税率が20.315%になります。

次に、控除できる費用をもれなく計上する点が重要です。取得費用や譲渡費用、リフォーム費用、売却時の手数料などを正確に計上し、課税対象を減らしましょう。最後に、特別控除を確実に利用するために、適用条件を確認し、必要書類を準備する点が大切です。税務署や税理士に相談して確実に申告しましょう。

まとめ

本記事では、長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分や具体的な計算方法、そして節税のポイントを解説しました。長期譲渡所得と短期譲渡所得では税率が違い、どちらが適用になるかで、納める税額が大きく変化します。税金の最適化をするためにも、適切に情報収集し、賢く活用しましょう。

民辻 伸也

執筆者

民辻 伸也

宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

大学を卒業し、投資用不動産会社に4年勤務後、選択肢を広げて一人ひとりに合わせた資産形成をおこなうため、転職。プロバイダー企業と取引し、お客様が安心感を持って投資できる環境づくりに注力。不動産の仕入れや銀行対応もおこなっている。プライベートでも、自ら始めた不動産投資でマンション管理組合の理事長に立候補。お客様を徹底的にサポートできるよう、すべての経験をコンサルティングに活かしている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ

ライフマネー研究所
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