アパートの減価償却とは?計算方法と節税対策を解説

では、そもそも減価償却とは何なのでしょうか?また、どのように計算し、節税に活用できるのでしょうか?本記事では、アパート経営をおこなううえで重要な減価償却の仕組みを詳しく解説します。
記事の目次
減価償却とは

減価償却とは、時間の経過とともに価値が減少する資産に関して、取得費用を一定期間にわたって分割して経費として計上できる会計処理のことです。
アパートやマンションなどの不動産を購入した際、一括で取得費用を計上するのではありません。国が定めた法定耐用年数に基づいて分割し、毎年の経費として計上します。
ただし、すべての資産が減価償却の対象になるわけではありません。例えば、土地や骨とう品など、時間が経過しても価値が減らないものは、減価償却の対象外です。アパート経営で減価償却の対象になるものは、建物のみのため、注意してください。
建物は、大きく本体(躯体)、建物設備、器具備品に分類されます。また、税法上、取得価額が10万円以上の資産は減価償却の対象になります。一方、10万円未満のものは「消耗品費」としてその年の経費として計上できます。
減価償却の種類
減価償却費の計上方法は、主に以下の3種類です。
-
通常の減価償却
法定耐用年数に基づき、一定の割合で償却していく一般的な方法。 -
一括減価償却
10万円以上20万円未満の資産に関して、耐用年数を考慮せず、取得した年から3年間で均等に償却する方法。固定資産税の課税対象にならないメリットもある。 -
少額減価償却資産の特例
取得価額が30万円未満の資産に関して、一定の条件を満たせば、使用した年に全額を経費として計上できる特例。ただし、青色申告者のみ適用され、年間合計300万円までの制限がある。
利益が大きく出た年には、少額減価償却資産の特例を活用することで、大幅な節税が可能です。
法定耐用年数
法定耐用年数とは、資産ごとに定められた「減価償却の期間」のことで、国が定める基準に基づいて決められています。不動産に関しては、減価償却の対象となるものは建物のみで、土地は含まれません。
建物は、大きく本体(躯体)、建物設備、器具備品に分けられ、それぞれ異なる耐用年数が設定されています。
建物本体(躯体)の法定耐用年数
構造 | 耐用年数 |
---|---|
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
木造 | 22年 |
軽量鉄骨(厚さ3mm~4mm) | 27年 |
軽量鉄骨(厚さ3mm以下) | 19年 |
出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
上記の耐用年数をもとに、国税庁が発表している「減価償却資産の償却率表」から償却率を算出し、減価償却費を計算します。
また、建物本体や建物設備の価格は、不動産会社が発行する譲渡対価証明書などで確認できます。記載がない場合は、不動産会社に問い合わせてみましょう。
中古物件と新築物件で減価償却の計算方法は変わる?
アパート経営での建物の減価償却費は、建物価格と耐用年数に基づいて算出されます。そのため、構造によって減価償却の期間が異なります。例えば、鉄筋コンクリート造(RC造)は47年、重量鉄骨造は34年、木造は22年です。
これらの耐用年数を見ると、新築物件のほうが長く償却期間を確保できるため、一見すると税金対策上有利に思えるかもしれません。しかし、中古物件の場合は特別な計算方法が適用されます。
具体的な計算方法は以下のとおりです。
(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 0.2
例えば、築20年の木造住宅であれば、次の計算式で求められます。
(22年 - 20年)+(20年 × 0.2)= 6年
つまり、中古物件の場合、単純に法定耐用年数で計算するのではなく、経過年数の分だけ短い年数で減価償却できるため、早期に多くの経費を計上できます。
また、中古物件は新築に比べて取得価格が低くなることが多いです。そのため、減価償却を活用することで、投資費用も抑えつつ、節税効果も得られるでしょう。
新築物件と中古物件のどちらを選ぶべき?
短期間で大きな節税効果を得たい場合は築年数の経過した中古物件、長期的に安定した経費計上をしたい場合は新築物件が適しているでしょう。
特に、アパート経営を拡大していきたいオーナーであれば、直近のキャッシュフローをよくするために中古物件を選ぶことも一つの手です。一方で、長期的な安定収益を重視し、次の投資の資金確保を優先したい場合は、新築物件のほうが適しています。
どちらにせよ減価償却費は節税に直結するため、自身の投資計画やキャッシュフロー戦略をしっかり検討したうえで物件を選択することが重要です。
減価償却をする際に知っておくとよいキーワード

減価償却を正しくおこなう際は、知っておくとよいキーワードがあります。以下でそれぞれ見ていきましょう。
取得価額
「取得価額」とは、アパートなどの不動産を購入、または建築する際に実際にかかった総費用のことです。一般的には物件の購入代金や建築費用だけでなく、付随して発生した費用も含まれます。例えば、不動産会社に支払う仲介手数料や、居住者がいた場合の立ち退き料など。さらに、地鎮祭にかかる費用など、取得に直結した支出は取得価額に含まれます。
一方で、不動産取得税や登録免許税、収入印紙代、融資を受けた際の利子などは、取得に直接関係のない支出となるため、取得価額には含まれません。上記の区別を正確に把握しておくことが、正しい減価償却の計算につながります。
取得価額に含まれる費用
- 建築費や購入代金
- 仲介手数料(不動産会社への支払い)
- 立ち退きにともなう費用
- 地鎮祭にかかった費用など
取得価額に含まれない費用
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 印紙代
- 借入金にかかる利子
償却率
「償却率」とは、減価償却をおこなう際に使われる割合のことです。この割合を用いることで、毎年どれだけの金額を減価償却費として会計上に計上するかを決定できます。例えば定額法の手法では、毎年同じ金額を費用として計上しますが、その計算にはこの償却率が欠かせません。
アパートの場合、建物の構造(木造、鉄骨造、RC造など)によって耐用年数が異なるため、償却率も構造ごとに違います。つまり、同じ価格で購入した建物でも、構造によって年間の減価償却費が変わります。減価償却の仕組みを正しく理解するために、償却率の考え方をしっかりと押さえておきましょう。
アパート経営での減価償却費の計算方法

減価償却の計算方法には、定額法と定率法があります。
定額法:毎年同じ金額を減価償却費として計上する方法。シンプルで管理がしやすい。
定率法:初年度の減価償却費が大きく、年々減少していく方法。初期の節税効果が高い。
ただし、1998年4月1日以降に取得した建物や2016年4月1日以降の建物付属設備に関しては、定額法での減価償却が義務付けられています。そのため、現在の不動産投資では基本的に定額法で計算します。
減価償却費の基本的な計算式は以下のとおりです。
減価償却費 = 取得価格 × 償却率
償却率は耐用年数ごとに定められており、建物の構造によって異なります。
設備 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|
鉄筋コンクリート造(RC造) | 47年 | 0.022 |
鉄骨造 | 34年 | 0.030 |
木造 | 22年 | 0.046 |
参考:国税庁「減価償却資産の償却率等表」
新築物件の減価償却費の計算例
例えば、鉄筋コンクリート造の新築物件を1,000万円で取得した場合の減価償却費は以下のように計算できます。
1,000万円 × 0.022 = 22万円
上記のように、新築物件の場合は、法定耐用年数に基づいて減価償却費を計上します。
中古物件の減価償却費の計算方法
中古物件の場合は、築年数を考慮して耐用年数を再計算する必要があります。一般的には「簡便法」を用いて耐用年数を算出します。
中古物件の耐用年数 =(法定耐用年数 - 築年数)+(築年数 × 20%)
例えば、築20年の鉄筋コンクリート造の物件(1,000万円)の場合、耐用年数は以下のように計算されます。
(47年 - 20年)+(20年 × 0.2)= 31年
この時の償却率は0.033となり、減価償却費は次のように求められます。
1,000万円 × 0.033 = 33万円
耐用年数を超えた中古物件の場合
築年数が法定耐用年数を超えている場合は、以下の計算式を用います。
中古物件の耐用年数=法定耐用年数×0.2
例えば、築25年の木造物件(法定耐用年数22年)を取得した場合、以下のようになります。
22年 × 0.2 = 4年
つまり、取得価格を4年間で一気に償却できます。
アパート経営で減価償却をする際の注意点

減価償却をおこなう際は、知っておくべき注意点があります。注意点をしっかり理解してから、申告をおこないましょう。
借入金(ローン)との関係を理解しておく
減価償却費と借入金返済のバランスは、アパート経営では重要なポイントです。まず意識すべきは、年間のローン返済額を減価償却費の範囲内に収めること、そして借入期間を建物の耐用年数以内に設定することです。
ローンの元本返済は実際に資金が出ていく一方で、会計上は費用として扱われません。なぜなら、借金の返済は損益計算に含まれないためです。借りたお金が収入として認識されないのと同様、返済も費用にはなりません。そのため、帳簿上の利益とは別に、手元に残る現金(キャッシュフロー)をしっかりと確認しておかなければなりません。
キャッシュフローは減価償却費に比べて返済額が大きいと目減りし、逆に返済が少なければ資金に余裕が出ます。また、ローンの完済が耐用年数を超えると、税金負担が増し、キャッシュフローが急激に悪化するリスクもあります。ローンの借入期間を耐用年数の範囲内に抑えるように意識しましょう。
修繕費と資本的支出の違いを理解しておく
アパートの修繕工事では、すべての支出がそのまま費用として処理できるわけではありません。修繕の内容によっては「資産」として扱われることがあるため、減価償却が必要になります。
例えば、部屋のクロスを張り替えるような軽微な修繕は、費用として処理できます。しかし、建物を増築して新たに部屋を作るような工事は、新しい収益源を生む設備投資とみなされ、費用ではなく「資本的支出」として資産に分類されます。
一般的な目安として、修繕の支出が20万円未満であれば「修繕費」として認められますが、20万円以上になると資産扱いに。減価償却によって年ごとに費用化されることになります。
しかし例外もあり、外壁塗装のように支出が高額でも内容次第で全額を修繕費として処理できる場合も。単純な塗り替えであれば、節税対策として有効な手段となるでしょう。一方で、既存の外壁を高性能な仕様に変えるなど、価値を高めるような内容が含まれると、資本的支出と判断されてしまうため、注意が必要です。
アパート経営で減価償却費を多く計上するためのポイント

減価償却費をなるべく多く計上できれば、節税対策として大きな効果を期待できます。特にアパート経営では、減価償却の仕組みを上手に活用することで、手元に残る利益を増やせるでしょう。ここでは、減価償却費を多く計上するためのポイントを解説します。
中古アパートを選ぶ
減価償却を有利に進めるための一つの方法として、中古アパートの購入が挙げられます。アパートやマンションの法定耐用年数は、構造によって決まっています。例えば木造アパートの場合、耐用年数は22年と比較的短めです。新築ではなく中古の木造アパートを選ぶことで、減価償却を加速させられます。
特に、すでに法定耐用年数を超えている木造アパートを購入すると、短期間で減価償却できるため、年間の減価償却費が大きくなる点がメリットの一つ。
中古物件は「短期間で大きな減価償却費を計上できる」ため、節税効果を期待しやすくなります。なかでも、木造アパートは耐用年数が他の構造より短いため、より恩恵を受けやすい点も魅力です。
建物と附属設備を分けて計上する
中古アパートの購入が難しい場合や、新築の鉄骨造アパートを建てたいと考える方もいるでしょう。そのような場合は、建物本体と附属設備を分ける方法を利用すれば、減価償却費を増やせます。
通常、アパートの減価償却は「建物全体」として計算されることが多いですが、実際には建物本体、附属設備、構築物、器具備品などの設備部分に分けられます。それぞれの設備ごとに法定耐用年数が異なるため、建物全体として一括で減価償却するよりも、より短期間で償却できるものが出てきます。
上記の方法を実践するには、工事明細書をもとに各設備の法定耐用年数を調査しなければなりません。手間はかかりますが、おすすめの方法の一つです。設備部分の価格は建築総額の1~3割程度を占めることが多く、この部分を短期間で減価償却できれば、年間の減価償却費を大きく増やすことが可能です。
新築の鉄骨造アパートを建てる場合でも、このような工夫を取り入れることで、より効率的に節税できるでしょう。
減価償却が終わったアパートの対応策

アパートの減価償却が完了すると、オーナーの手取りが減少します。なぜなら、減価償却費を計上できなくなることで経費が減り、結果、課税対象となる所得が増えてしまうためです。減価償却が終わったあと、どのようにアパートを経営していくかが重要になります。ここでは、減価償却が終わった際のアパートの対応策を詳しく見ていきましょう。
アパートを売却する
減価償却が終わったタイミングで、アパートを売却することも一つの方法です。減価償却が終わると、計上できる経費が減るため、毎年の課税所得が増加し、納税額が増えてしまいます。結果、手元に残るお金が少なくなるため、アパートを所有するメリットが薄れてしまう可能性があります。上記の理由から、減価償却期間の終了は売却のタイミングにも適しているでしょう。
ただし、売却時には注意が必要です。例えば、アパートの法定耐用年数がすでに過ぎている場合、購入希望者が金融機関から融資を受けにくい問題が発生する可能性があります。また、老朽化が進んでいると、リフォームやリノベーションが必要になり、追加費用がかかることも考えられます。
更地にして売却する
アパートを取り壊し、更地にして売却する選択肢もあります。アパートが老朽化している場合や、他の活用方法が見込める土地である場合には、特におすすめです。ただし、更地にして売却する際は、入居者に退去してもらわなければなりません。スムーズに退去してもらうためには、交渉をおこなうか、あらかじめ定期借家契約を結んでおくことが大切です。
さらに、建物を解体するための費用も考慮する必要があります。建物が大きいほど、解体費用は高額になり、場合によっては数百万円単位のコストがかかることも。ローンで解体費用を調達する場合、金利負担も発生するため、慎重な判断が重要です。
アパートを建て替える
立地がよく、今後も賃貸需要を見込める場合には、アパートを建て替える選択肢もあります。建て替えとは、古くなった建物を解体し、新築物件を建て、賃貸経営を継続する方法です。
特に、アパートローンの返済が完了している場合、新たにローンを組むことで、より収益性の高い物件を建設するチャンスになります。ただし、入居者がいる状態で建て替える場合には、立ち退き費用が発生するため、計画的に進めることが重要なポイント。
不動産会社や専門家と相談しながら、無理のないスケジュールで進めることをおすすめします。
まとめ
本記事では、アパートの減価償却について解説しました。減価償却費は、アパート経営でも重要な経費の一つであり、物件の構造によって計上できる金額や期間が異なります。例えば、鉄筋コンクリート造と木造を比較すると、木造は1年あたりの減価償却費が高くなる一方で、償却期間が短くなります。
反対に鉄筋コンクリート造は、1年あたりの減価償却費は少ないものの、長期間にわたって計上できるため、安定した経費処理が可能。
不動産投資をおこなう際には、この違いをしっかり理解しておきましょう。短期間で節税効果を得たいのか、それとも長期的な安定性を優先するのかを考えて、物件を選ぶことが重要です。
減価償却をうまく活用することで、節税だけでなく、資金繰りや投資戦略の柔軟性を高めることも可能になります。投資物件選びの際には、ぜひご紹介したポイントを意識してみましょう。

執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ