家賃収入があると年金が減るって本当?減額の仕組みや確定申告の必要性まで徹底解説

将来の生活のために不動産投資を始めたのに、年金の受給額が減ってしまえば損をしたように感じてしまうでしょう。本記事では、家賃収入があると年金が減額されてしまうのかを解説します。年金が減額される仕組みや確定申告の必要性までをまとめていくので、ぜひ参考にしてください。
記事の目次
年金が減額される仕組み

60歳を過ぎて収入を得ている方のうち、次のいずれかに該当する方は、受け取っている給与や賞与など給与所得の額に合わせて、年金の一部または全額が支給されない場合があります。
- 70歳未満で会社に就職し厚生年金保険に加入している
- 70歳以上で厚生年金保険の適用事業所に勤めている
上記の制度は「在職老齢年金制度」といいます。そのため、年金を受給していて収入を得ている方全員が、年金を減額されるわけではありません。
高齢者に収入があると年金が減額されると聞いたことがある方は、上記の制度を誤解してとらえている可能性があります。
また、在職老齢年金制度は、国民年金の加入者にも該当しません。対象はあくまで会社勤めで一定の給与所得を受け取っている厚生年金の被保険者のみです。不動産所得である家賃収入は、在職老齢年金制度の対象外となります。
在職老齢年金制度の仕組み
在職老齢年金制度は、高齢者の就労意欲を高め、社会参加を促すことを目的としています。しかし、在職老齢年金制度には一定のルールがあり、老齢厚生年金の月額と給与収入(総報酬月額相当額)の合計額によって年金の支給額が変わります。
具体的には、老齢厚生年金の月額と給与収入(総報酬月額相当額)の合計額が50万円以下であれば、年金の全額支給が可能。しかし、50万円を超えると、超えた分の半分が年金から差し引かれます。例えば、合計額が52万円であれば、2万円の半分である1万円が年金から引かれます。
なお、老齢基礎年金は在職老齢年金制度のルールの対象外で、常に全額支給されるので、安心してください。
また、加給年金は全額支給されない場合があるため、注意が必要です。
制度見直しによる緩和
2022年4月からは、在職老齢年金制度の基準が見直されました。これにより、60歳以上65歳未満の方は、65歳以上の方と同じ基準になり、以前よりも緩やかな基準に。2022年3月までは、28万円から47万円の間で支給停止額が計算されていました。制度が見直しされたことで、60歳以上65歳未満の方も、自分に合った働き方を選びやすくなりました。
アルバイトやパートの場合
年金減額の対象は厚生年金に加入している方だけです。そのため、厚生年金に加入していないアルバイトやパート、フリーランスで収入を得ている方も、年金が減額されることはありません。
家賃収入(不動産所得)をはじめ、株や有価証券の売買(譲渡所得)や配当(配当所得)、自営業やフリーランスで請け負った仕事の収入(事業所得・雑所得)などは対象外です。
そのため、家賃収入で年金が減額されることはありません。年金を受給しながら得られる家賃収入は、老後に備えた収入として効果的な手法でしょう。
年金受給中でも家賃収入には税金がかかる

家賃収入と年金の減額が無関係だとしても、年金とは別で収入を得ていることは間違いありません。
家賃収入は不動産所得に分類される
では、家賃収入はどのような所得に分類されるのでしょうか。結論をいうと、家賃収入は不動産所得に分類されます。
不動産所得とは、以下の3つに該当する所得を指します。
- (1)土地や建物などの不動産の貸付け
- (2)地上権など不動産の上に存在する権利の設定および貸付け
- (3)船舶や航空機の貸付け
家賃収入は(1)の土地や建物などの不動産の貸付けに該当するため、不動産所得として扱われます。
不動産所得の金額は、「総収入金額-必要経費」で計算可能です。
総収入金額には、賃貸料以外にも、名義書換料、承諾料、更新料、敷金や保証金、共益費などが含まれます。必要経費には、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などが該当します。
家賃収入にかかる税金
家賃収入は税法上、不動産所得に該当し、所得税と住民税、消費税の課税対象です。ただし所得税は、賃貸経営を維持するために必要な経費を計上することで、税額を抑えることができます。
また、収入の源泉である土地や建物などの不動産には、固定資産税や都市計画税を納めなくてはなりません。家賃収入を少しでも多く手元に残したいなら、支払うべき税金や会計に関する知識を身につけておく必要があります。
家賃収入を得ている場合に課される主な税金は以下の3つです。
所得税
土地や建物などを賃貸して得られた収入は、不動産所得として扱われ、所得税の対象となります。火災保険料や修繕費などは経費として扱うことができますが、収入から経費を差し引いた額に対して、所得税が課税されます。
家賃収入を得ている場合には、正確な確定申告をおこない、適切な所得税を納めなければなりません。
住民税
所得税と同様に、一定額以上の所得がある場合には、住民税が発生します。所得税の確定申告をおこなえば、その情報が居住している市区町村に送られ、住民税の税額が計算されます。
固定資産税
固定資産税は、土地や建物を所有しているだけで発生する税金です。不動産の評価額に応じて税額が異なりますが、納付した固定資産税額は経費として扱えます。
年金を受給しながら家賃収入を得るメリット

年金を受給しながら家賃収入を得ることには、さまざまなメリットがあります。家賃収入は老後の生活を支えるだけでなく、次代に残せる資産形成にもつながります。それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
不労所得になる
投資物件の管理を管理会社に委託すれば、賃貸経営にまったく関わらなくても家賃収入を得られます。この場合、家賃収入は、基本的に自分が働かなくても得られる「不労所得」といえるでしょう。
現在の日本では、60代や70代でも元気に働き続けられる方が多くいます。しかし、いつまで健康で働き続けられるかは、誰にもわかりません。
会社員として働いていても、病気やケガなどで就労できなくなった場合、収入が途絶えてしまいます。一方で、家賃収入があれば、不測の事態が起きても収入を確保できます。
高齢化が進むなかで、不労所得である家賃収入は、老後の生活を支えるうえで重要な役割を果たしてくれます。体力や健康状態の変化に左右されることなく、安定した収入を得られる点が大きなメリットでしょう。
年金の不足を補える
老後の生活費に必要な金額は、公的年金以外に2,000万円程度が必要だといわれています。最近は物価が上昇するインフレであることから、2,000万円では足りないとも。つまり、公的年金だけでは老後の生活を賄うのが難しいのが現状です。
さらに、少子高齢化の進行にともない、将来的には年金給付額が減額される可能性も指摘されています。
家賃収入があれば、自身が労働しなくても収入を得られ、高齢化が進んでも安定した収入源となるでしょう。
iDeCoや私的年金の一つとして活用できる家賃収入は、安定した老後生活を送りたい方にとって魅力的な選択肢です。公的年金の不足を補うことで、より豊かな生活を送れるでしょう。
インフレ対策になる
社会がインフレ傾向にある場合、食品をはじめとする生活必需品の価格が上がり続けます。このような状況下では、現金の価値が下がり、相対的にモノの価値が上がります。不動産もその例外ではなく、投資物件の価値や家賃も上昇していくのです。
投資物件がインフレに強い理由は、家賃収入(インカムゲイン)と売却益(キャピタルゲイン)の二面性を持っているから。
金投資のように、キャピタルゲインのみに依存する金融商品とは異なり、不動産は収益を得る方法を分散できるため、物価上昇に左右されることなくインフレ対策が可能です。
また、定年退職後に得た退職金を現金として保有していても、インフレの影響を受け、実質的な価値は下がってしまいます。
一方で、投資物件を所有しておけば、有効なインフレ対策が取れます。物価上昇に左右されずに、安定した収入を確保できるのが、不動産投資の魅力といえるでしょう。
資産を残せる
投資物件は、所有者が亡くなっても、子どもや孫が相続し、その価値を受け継げます。相続人はそのまま継続して家賃収入を得ることも、売却して代金を受け取ることも可能です。いずれにしても、次世代に大きな価値を残せることが投資物件の大きな特徴です。
現金や株式などの資産は、インフレの影響を受けて価値が下がる可能性がありますが、投資物件はその影響を受けにくく、価値の下がりにくい資産の一つ。
老後の生活を支える収入源としての家賃収入も重要ですが、その先の世代にもよいメリットを与えられるのは、不動産投資ならではの魅力でしょう。
年金を受給しながら家賃収入を得る際の注意点

年金を受給しながら家賃収入を得る際には、いくつかの注意点があります。これまで納税に関する申告や届出をおこなったことがない方にとっては、各種の納税手続きに初めて携わることになるため、特に注意が必要です。
ここでは、年金と家賃収入を得る際の注意点を解説します。
確定申告が必要になる
原則として、家賃収入を得る場合は確定申告が必要です。確定申告とは、1年間で得た収入から必要経費などを差し引いて所得を算出し、納める税額を計算して、税務署に届け出る手続きのことです。
家賃収入を得た場合は、基本的に確定申告が必要ですが、不要な場合もあります。
所得税の確定申告をしなくてもよい場合
年金生活者の場合、下記の2つの要件に該当すれば所得税の確定申告は不要とされています。
- (1)公的年金などの収入額の合計が400万円以下
- (2)公的年金などにかかる雑所得以外の所得金額が20万円以下
ここで重要なのは、(1)は「収入金額」、(2)は「所得金額」で判断しなければならない点です。
公的年金などは雑所得に分類されます。
しかし、公的年金など以外の雑所得とその他の所得(事業、不動産、配当、給与、総合譲渡と一時)の合計が20万円以下であれば、確定申告は必要ありません。
公的年金を受け取る際には、源泉徴収されています。年金以外の収入があって申告すると納税が発生する場合でも、年金以外の所得が20万円以下であれば、確定申告は不要です。
そのため、年金生活者が家賃収入を得ている場合でも、状況によっては確定申告が必要になったり、不要になったりするのです。
とはいえ、家賃収入を得ている場合は、上記の要件を満たすことは難しいでしょう。例えば、月額家賃5万円の一戸建て賃貸で、経費が月3万円かかるとしましょう。その場合、年間の不動産所得は24万円となり、20万円を超えてしまいます。
そのため、基本的には確定申告が必要だと考えておくのが無難でしょう。
納め過ぎた源泉徴収分は確定申告で取り戻せる
確定申告が不要な場合でも、納め過ぎた税金を取り戻したい場合は、確定申告(還付申告)が必要です。例えば、医療費控除や寄附金控除による還付申告、株式の損失の繰り越しなど。また、家賃収入より経費が大きい場合は不動産所得が赤字となりますが、この損失は他の所得の利益から差し引けます(損益通算)。この場合も確定申告が必要です。
ただし、借入金の利子分は損失額に含まれず、他の所得との損益通算はされないため、注意が必要です。さらに、所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告が必要な場合があります。住民税の取り扱いに関しては、お住まいの市区町村にご確認ください。
扶養から外れる可能性がある
定年退職後は、配偶者や子ども、親族の扶養に入る場合もあるでしょう。しかし、年金と家賃収入の合計が180万円を超えてしまうと、扶養から外れなくてはなりません。そうなると、今まで扶養していた方の所得控除額が減少するため、納めるべき所得などの税額が増加してしまいます。もし、これまで扶養に入っていた場合は、不動産投資を始める前に、扶養から外れた時の具体的な税額の増加分を確認しておくことが重要です。
まとめ
本記事では、家賃収入と年金の関係をご紹介しました。不動産投資で家賃収入を得ても、年金が減額されることはありません。
ただし、確定申告が必要なことや扶養から外れる可能性があることなど、いくつか注意すべき点があります。不動産投資を始める際は、ご家族に相談してからおこなうようにしましょう。

執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ