
リノベーションマンション事例「コルビュジエの建築を思わせる色づかいで、 本来の空間美を表出」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都世田谷区のノーランさんご家族の事例をご紹介します。世田谷に建つ築37年の「ビラ・シリーズ」。 ビビッド×ニュアンスカラーのコントラストで、 建物が持っている力強い魅力を引き出す。(text_ Yasuko Murata photograph_ Osamu Kurihara)
ヴィンテージマンションとして人気を誇る「ビラ・シリーズ」。4歳の息子さんと暮らすデヴィッド・ノーランさん、美英さんご夫妻は、世田谷区内にある同シリーズの物件を一目で気に入った。2人ともル・コルビュジエなどのモダニズム建築が好きだというから納得だ。
「夫の出身地のイギリスでは、住みながら手を加えていくのが一般的。この家も玄関まわり、トイレなどの最小限のリフォームをした後、暮らしながらどうつくっていくか考えることにしました」(美英さん)

上下階をつなぐ階段と吹き抜け。勾配天井が開放感にあふれた空間をつくる。上質な木材が使われていた天井や階段の仕上げには手を入れず、既存のままとしている。
築37年、面積約107㎡の物件は、メゾネットタイプで、下階にリビングダイニングと小さなキッチン、上階に3つの個室、水まわりがある。2年ほど暮らして、いろいろなアイデアが出てきたタイミングでリノベーションを計画し、Ar.K一級建築士事務所の南部健太郎さん、久保緑子さんに相談した。
壁式構造のため、間取りはそのまま活かし、仕上げや設備を中心に変更。優先したのは、キッチンやサニタリーなどの水まわりだ。キッチンはコンパクトな空間の中に、コの字型にカウンターを配し、収納や吊り戸棚を鮮やかな黄色で塗装。大理石の天板、壁に張った手焼き風のタイルなどで、明るい雰囲気に一新した。バルコニーに面して大きく開口が設けられた浴室は、バスタブを中央に配置し、床やエプロンなどに黄色の丸タイルをセレクト。自然光が映える空間に仕上げた。

ダイニングからキッチンを見る。コンパクトなサイズは、パリのアパルトマンの雰囲気。小さな窓からの光、白いタイル、黄色い収納扉が明るさを感じさせる。


洗面室の床はモルタル。壁や天井も質感を合わせて塗装。埋め込み型の洗面器はカタラーノ社の「カノバロイヤル」。これに合わせて天板、収納のデザインを決めた。

洗面室の一角。モルタル風の壁に、韓国のヴィンテージ家具や小物をコーディネート。洗面室の奥は、既存の壁を取り払った、スリーインワンスタイルのトイレ。

大きな開口が設けられ、バルコニーにも出られる浴室。バスタブは既存の配置と90度向きを変え、中央に配置。段差の曲面仕上げでなめらかに外部とつながる。
「元の空間に魅力があり、2人もそれを気に入っていたので、できるだけ原状の雰囲気を壊さないように使い勝手をアップグレードすることを目指しました」(南部さん)
下階のリビングダイニングは、壁を淡いグリーンで塗装。既存の木張りの勾配天井や、造り付けの家具などに馴染む、さわやかな雰囲気となっている。上階は七宝柄のカーペットを敷き詰めた空間。通路の壁は赤、各個室の壁はライラック色で塗装し、あたたかみのある暖色系で統一している。

下階の壁は淡いグリーンで塗装。日本、韓国、中国などの骨董家具を配している。リビングはソファを2つ置いてゆったりと。

下階のリビングダイニング。奥の壁付け収納やテーブル、梁の手前にあるスピーカーを置いている棚は、既存の造り付け家具を活かした。床はサイザル麻。



「既存の空間はどの角度から見ても美しく、コルビュジエの建築のように色を使うことで、引き立つと考えました。空間を見ていると、この色を使おうとインスピレーションが湧いてきます。アクセントに強い色を使い、コントラストをつけたことで、より魅力的な家になったと感じています」(デヴィッドさん)

子ども室。壁や床は上階の他の部屋と同様の仕上げに。シックな空間の中に、IKEAのポップな色合いのアイテムが映える。


ヘレンド、伊万里焼、日本の骨董などのコレクションが並ぶ。

3階建ての低層の建物が、ケヤキの木を植えた中庭を囲む。
建物データ
〈専有面積〉107.38㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1979年〈リノベーション竣工〉2014年〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉2ヶ月〈設計〉Ar.K一級建築士事務所〈施工〉平野建設

※この記事はLiVES Vol.86に掲載されたものを転載しています。
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