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リノベーションマンション事例「小さくても心地良い、 卵型の空間が育む 家族の時間」

雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都新宿区のCさんご家族の事例をご紹介します。1LDKだったマンションを、3つの個室と 開放的なLDKの間取りにリノベーション。 プランのカギとなったのは卵型の空間だった。(text_ Satoko Hatano photograph_ Takuya Furusue)

築50年で広さは55㎡。1LDKのマンションに9年前から住んでいるCさんご夫妻。家族が増えたら引越そうと考えていたが、ご主人の職住近接を優先してそのまま住み続けることに。しかし、息子さんが小学生に、娘さんが幼稚園に上がり、間取りに不便さを感じていた。

「私の帰宅時間が遅く、家族はいつも寝ています。以前は面積の半分が寝室で、窮屈なLDKで過ごしていました」(ご主人)

LDKの広さを確保し、成長した子どもにも個室を与えたいという思いからリノベーションを決意。設計は、自由な発想を求めて建築家の堀泰彰さんに依頼した。

まず、居室を2分していた壁を撤去してワンルームに改修。特徴的なのは、一室空間に配した卵型平面の個室エリアだ。「卵」の中は兄妹と夫婦の寝室で、ベッドが入るぎりぎりの広さで3分割されている。

「卵」内部の個室は主寝室の反対側が子ども室。IKEAの2段ベッドが収まるサイズに2分割されている。湾曲した壁の上部を抜いて通風を確保し、圧迫感も解消。
「卵」の中の主寝室はダブルベッドサイズ。

「Cさんが描いたスケッチが、ベッドの上に洋服掛けのパイプが渡る極小空間だったので、個室は本当に最小限でいいんだなと。卵型平面の個室を囲む湾曲した間仕切り壁は、視線を空間の奥へ導くのでLDKを広く見せるのに効果的なのです」

と堀さん。たしかに、居室に入ると手前からキッチン、ダイニングと続き、卵型に湾曲した壁に沿って視線がリビング奥へと導かれる。しかし突き当たりは見えず、小さなワンルームは実際以上の奥行感だ。

日当りの良いワンルームのLDK。曲面に沿って視線が奥へと導かれる。ハンモックは兄妹たっての希望。コンパクトな空間に家族それぞれの居場所を得ている。
既存のキッチン扉を塗装し直した。把手と水栓、ガス調理器、レンジフードは刷新。
窓まわりに断熱材を施して室内の温熱環境も改善。窓の外に広がる緑は、住宅購入の際の決め手の一つだったという。

限られたコストの中、風合いを大切にする内装へのこだわりも。湾曲した新設の壁は塗装仕上げで、既存部分は塗装に似た表情のクロス貼り。床はアカシアの無垢材で、割安なムラのある色味を選定。古道具屋で買った年代物の家具とも好相性だ。

収納庫を兼ねる玄関ホールは、土間部分を縮めてアカシアの床材を延長。リンゴ箱をオイル塗装した靴収納や、風呂敷、BOXを活用した収納術で雑多な印象を払拭。

奥さまは元革職人。クラシックな雰囲気の業務用ミシンがインテリアの一部に。

「卵の中はレゴ部屋と呼んでいます。こもって遊びに集中できるみたいで。小さくても自分の空間ができたので2人ともテンション上がってます」

と奥さま。休日は「無理にでも出かけていた」というが、家族それぞれの居場所と好みの内装に包まれた空間を得て、今ではすっかり家で過ごす時間が増えたという。

「重要なのは何を優先するかです。プライバシーなのか、家族のつながりなのか。Cさんは潔いほど優先順位がはっきりしていました」

堀さんは家づくり成功の鍵を振り返る。限られたスペースとコストの中で、できることを考える楽しさが形になった住まいなのだった。

左・既存の鏡付きユニット収納を撤去してシンプルな洗面台に。/右・トイレは機器を刷新。水まわりの床は居室と同じアカシア。

建物データ

〈専有面積〉55.27㎡〈バルコニー面積〉3.30㎡〈主要構造〉 鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1967年〈リノベーション竣工〉2016年〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉0.5ヶ月〈設計〉ディンプル建築設計事務所〈施工〉手槌建築

※この記事はLiVES Vol.92に掲載されたものを転載しています。
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