
リノベーションマンション事例「街に機能を分散し物を持たずに暮らす、全長19.5mの細長い家」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都渋谷区のTさんの事例をご紹介します。人気のレトロマンションで空きが出た住戸は、驚きの細長さだった。その魅力を引き出すリノベーションで、都心に住むことの快適さを享受する。(text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Furusue)
Tさんが暮らすのは、代官山にあるヴィンテージマンションの一室。幅2.5m、長さ19.5mというとても細長い間取りが珍しい。そろそろ賃貸暮らしから持ち家にと考えていた折り、以前から興味をもっていた人気のマンションに空きが出たと聞いて内見。その長々とした空間に驚いたが、すぐに購入を決めたという。
「もともと窓が多くて開放的な家に住みたいと思っていたんです。この物件は長手方向に掃き出し窓がたくさんあり、明るくて眺めのいいところが気に入ったので、迷いはありませんでした」

長い廊下を通って寝室からリビングへ移動することで、自然に気分が切り替わる。フローリングは光の入り方に似合うグレイッシュなものを選んだ。

仕事を家に持ち帰ることもあるので、南の窓際にワークスペースをしつらえた。天井は既存の下地(木毛セメント板)に薄く白の塗装をかけ、ラフな質感を活かした。
近接する高層のマンションやビルもないので、寝室以外にはカーテンも付けず、開放的な暮らしを楽しんでいる。既存の壁クロスや天井は剥がされ、ヴィンテージならではの味わいのある素材が魅力を放つ。住戸の端から端までを見渡すと長い距離を実感でき、窓からの開放感とあいまって広く感じられる。

クロスとボードを剥がして現れたテクスチャーをそのままに。

日本酒やワインが好きなTさんには、お酒を通じた友だちが多く、頻繁に人を招いては酒盛りをする。
「私自身はあまり料理をしないのですが、料理上手な友人に使ってもらいやすいようなキッチンにしてほしいと、建築家の片山さんにリクエストしました」

シンプルなステンレスキッチンは無印良品とサンワカンパニーのコラボレーションで生まれた「MUJI+KITCHEN」。料理好きの友人に腕を振るってもらう。

キッチンではオープン棚にウィスキーやスピリッツなどの酒瓶やグラスをそろえ、来客が気軽に手に取れるようにした。2台のワインセラーも備えている。
壁向きだったキッチンは複数の人でも使いやすいアイランド型に変更。目の前の窓から景色を眺めながら料理ができる。2台のワインセラーの置き場所も確保して、食器や酒類は誰もがわかりやすいようにオープンラックに並べている。
都心にこだわって暮らすTさんに、その利点を尋ねてみた。
「代官山には、お気に入りの大型書店やスーパーもあり、ジムやプールといった施設も充実しているので、快適に暮らせるんです。マンションの周辺においしいお店やカフェも多くて、家の中に何もかもそろっていなくても困りません。身軽に暮らせることが、都心に住むのが好きな理由です」

奥行き2mの広いバルコニーが付いていることも、この家の魅力。Tさんはここに芝を張り、より居心地をよくしようと画策中だそう。
「朝、気持ちがいいので、夜型だった生活が朝型に切り替わりました。私は引っ越し魔なのですが、しばらくここを離れる気にはなりそうもありません」


建物データ
〈専有面積〉52.65㎡〈バルコニー面積〉39.00㎡〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1972年〈リノベーション竣工〉2017年〈設計期間〉2ヶ月 〈工事期間〉1.5ヶ月〈設計〉片山正樹建築計画事務所〈施工〉ルーヴィス

※この記事はLiVES Vol.105に掲載されたものを転載しています。
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