
リノベーションマンション事例「SOHOとしてのシンプルな間取り、使い勝手のいい収納」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都港区の田中さんの事例をご紹介します。片付けに時間を取られるのはもったいない。合理的な動線と機能的な収納を組み合わせて、スマートな暮らしを手に入れる。(text_ Satoko Hatano photograph_ Takuya Furusue)
IT関連会社を経営しながら、関東と関西の大学で教鞭をとる田中康さん。自宅は神戸にあるが、週の半分を東京で過ごすため、都心にも職住の拠点を構えた。 場所は港区のビンテージマンション。約82㎡、2LDKの間取りを構造の壁だけ残した大空間にリノベーションした。設計を手がけたのは建築家の御手洗龍さん。
「田中さんからは、寝室と打ち合わせができるワークゾーンというシンプルな要望がありました。いろんな働き方がありますが、とくにクリエイティブな仕事をする人はオフィス然とした空間をつくっても結局はカフェで仕事をしてしまう。田中さんの場合もそうで、仕事と生活の場をはっきり分けるより、緩やかにつなげるプランを提案しました」

バランスを見ながら既存間仕切りと仕上げの多くを撤去し、残った壁を中心に回遊動線を創出。この壁がワークゾーンとプライベートゾーンを緩やかに分けている。その側らでは、2つの場にまたがる窓際にソファを造作するなど、空間をつなぐ仕掛けも。このソファは長さ6mで、台座は大容量の箱型収納にもなる。


ワークゾーンとプライベートゾーンにまたがる造作ソファは、台座部分を箱型収納に。背もたれのクッションを取るとベッドになり、神戸のご家族も滞在できる。
「生活拠点が2カ所あるため、一般的な住宅よりも収納に割く床面積は少なめです。代わりに建築と一体の造作収納を多用しました」
と御手洗さん。ソファのほか、壁面収納や間仕切り収納を動線に絡めて造作。使う場所としまう場所をセットで計画し、クールな表情のモルタル床に大型デスクが鎮座する整ったワークゾーンを実現した。

キッチンを含むワークゾーンは、コンクリート壁とモルタルの床で統一。梁から天井を白く塗装して広がりと明るさを演出した。板張りのカウンターは既存を利用。

右手のキッチンカウンターは既存を利用。正面の造作収納は玄関との間仕切りを兼ねる。右端は裏側に扉があり、水まわりの正面に洗濯機が収まる機能的なデザイン。

ワークゾーンの一画にあるデスクコーナー。物の露出が少なく、大型デスクが整然と配置されている。壁面にはフレキシブルボードで飾り棚を造作。
「実は、片付けが苦手なんです」
と田中さん。合理的な動線と組み合わせたシンプルな収納は、物探しに時間を取られないようにするためだという。
「ワードなどのシステムソフトウェアは、一般的には全機能の2割程しか使われていないんです。家や収納も同じで、複雑だったり機能が多すぎたりしても使いきれないので」
一方で、住まいの居心地にも配慮。寝室から続く曲面の既存壁をラワン材の曲げ合板で仕上げ、同材で曲線を描く棚板をデザインした。木のオブジェのような “見せる収納”が室内にあたたかみを与えている。

「仕事はデスクで、ブログの更新はくつろげるプライベートゾーンで。家の中で気持ちの切り替えができます」
シンプルな間取りと収納を、合理的かつ気分に合わせて自由に使いこなしているようだ。

季節物も入る大型クローゼット。



玄関の右手は水まわり。左手は間仕切り収納。
建物データ
〈専有面積〉82㎡〈バルコニー面積〉6.3㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉 1964年〈リノベーション竣工〉2016年〈設計期間〉3ヶ月 〈工事期間〉1.5ヶ月〈設計〉御手洗龍建築設計事務所〈施工〉TANK

※この記事はLiVES Vol.89に掲載されたものを転載しています。
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