
一戸建てリノベーション事例「築浅の建売住宅を光と緑と鳥の声に包まれる住まいに」
雑誌「LiVES」に掲載されたマンションリノベーション事例から、今回は東京都のSさんご夫妻の事例をご紹介します。家は絶対新築で…というはずが、思いがけず一戸建てのリノベーションに。だがそれは、手をかけ家を慈しむ豊かな暮らしの始まりだった。(text_ Sakura Uchida photograph_ Takuya Yamauchi)
築浅一戸建てのリノベーションを選択

リノベーションから3年。「ようやく家が育ってきたね」と笑うSさん夫妻。紫の曲面壁が印象的なLDKは南北に視線が抜け、窓から緑が飛び込んでくる。しかし、マンション住まいだった計画当時は、絶対に新築! という心づもりだったそう。設計もニコ設計室にと決めていて数年がかりで土地を探していたが、東京郊外のとある緑道に一目惚れして方向転換することに。豊かな環境だけに人気の土地で、ようやく市場に出たのは築10年の木造2階建て。予算の制約もあり、建て替えではなくリノベーションを選択した。

南側外観。ワイヤープランツの小径に導かれて玄関に至る。外壁は以前のままだが、ウッドテラスを新たに製作。三角形状で室内から見ると視線の抜けが強調される。
「けれども僕は、新しいだけのものって幅がないと思うんです」
そう語るのは設計を手掛けた西久保毅人さん。新旧が共存してこそ時間を積み重ねてきた街に家が馴染む。新築でも同様の姿勢を貫く西久保さんは、夫妻の選択を好ましく捉えた。

ゆるやかな曲面壁の仕切りを採用したリノベーション
敷地は旗竿状で、南側が細い竿状のアプローチ、北側が緑道に面した旗部分にあたる。既存の間取りはLDKが1階で、2階が個室群。総じて部屋が小割りで南北の抜けもなく、周辺環境のポテンシャルを活かせていないというのが、西久保さんの見立てだった。


プライバシーを確保しながら眺望を活かすために、LDKと個室を2階に配置。キッチンや個室は曲面壁でゆるやかに仕切り、南北の奥行きを強調する。緑道に面した北側にはベンチを造作して落ち着きのあるダイニングに。光と緑に包まれ鳥の声に耳を傾けていると、時間が経つのを忘れてしまうそう。1階には新たに寝室と奥さまのボイストレーニング教室を。緑道の景色を呼び込むため、北側にはスリット窓も設けた。


ボイストレーナーである奥さまのレッスン室。防音のため、施工はスタジオ専門の業者に依頼。壁にはアメリカから取り寄せたウロコ模様のタイルを張った。

寝室は小上がりに寝具を置き、下部を収納に。

1階廊下。緑道側の壁を抜いて窓を新設し、光と緑を導く。

リビングの隅のデスク下には寝室に通じる猫用階段がある。
自分たちでDIYをしながら家を育てる
塗装は友人も参加してDIYで。そして住み始めてからは、余ったデッキ材でご主人が棚や待合いのベンチ製作に挑戦。照明や家具類もゆっくりと時間をかけて、家に合うものを奥さまがセレクトした。

待合いスペースのベンチもDIYで。

猫が下階に降りないよう階段前に引き戸を。窓には棚をDIY。
「どこまでが僕らの設計に基づく大工さんの仕事なのか、はたまたSさんのDIYなのか、そして既存から変えていないところなのか、わからないくらい」(西久保さん)
さまざまな時間やモノが心地よいハーモニーを奏でているS邸。
「暮らしながら手を加えて。リノベーションの懐の深さを感じます」
と奥さま。いずれは、手付かずだった浴室と外壁に手を加えたいそう。この家が重ねていく時間が楽しみだ。

水まわりの位置は変えず、洗面を新調。手洗いで洗濯もできるように幅広の実験用シンクを選んだ。

小さな空間こそ、あえてアーティスティックな壁紙を採用。

既存LDK
現在リビングに生まれ変わった元個室。分断されていた南北に抜けをつくるのがリノベの基本構想。
建物データ
〈敷地面積〉120.01㎡〈建築面積〉47.71㎡〈床面積〉1階 47.71㎡、2階 45.65㎡、合計 93.36㎡〈用途地域〉第一種低層住居専用地域〈主要構造〉木造〈既存建物竣工〉2006年〈リノベーション竣工〉2016年〈設計期間〉6ヶ月〈工事期間〉3ヶ月〈設計〉西久保毅人+吉本脩佑+牛島史織(元スタッフ)/ニコ設計室〈施工〉パックシステム、リブテック(音楽室)、マガタニインターエリア(一部内装)

※この記事はLiVES Vol.111に掲載されたものを転載しています。
※LiVESは、オンライン書店にてご購入いただけます。amazonで【LiVES】の購入を希望される方はコチラ