
マンションリノベーション事例「譲れないのは生活動線」
雑誌「LiVES」に掲載されたマンションリノベーション事例から、今回は東京都武蔵野市のNさんご夫妻の事例をご紹介します。料理と器が好きな奥さまの希望を叶えた住まい。南北のバルコニーをつなぎ、キッチンから効率的に続く最短距離に収まった水まわり。生活時間帯の異なるご夫婦のストレスも解消。家事時間を短縮し、家族で過ごす時間を生み出す。(text_ Yasuko Murata photograph_ Takeshi Kimura)
築40年以上の中古マンションをリノベーション
共働き世帯が増加し、料理を始めとした家事の短縮を望む女性は多い。家づくりを考える時にも、使いやすく効率のよい家事動線やメンテナンスしやすい間取りは、検討すべき材料の一つとなる。
もともと住んでいた築40年以上の中古マンションをリノベーションすることにしたNさんご夫妻も、忙しい日々の中で、家族との時間を増やしたいと考えていたという。

南北のバルコニーをストレートにつなぐ動線。風や光、視線を通し、全体の連続性を高める。正面の青い壁の中がトイレと脱衣室。上部はガラスで圧迫感を軽減。
「料理と器が好きで、使う食器の数が多く、夕食後に食器を手洗いする時間がもったいないと感じていました。大型の食洗機を入れたいと思ったのがリノベーションのきっかけです。料理が気持ちよくできる機能があって、有効に空間を使える家をつくりたいと考えました」(奥さま)
ご主人も、家づくりには奥さまの意向をできる限り反映させることを希望していたという。ただ、早朝に家を出ることが多く、夫婦の生活時間帯に差があることは課題の一つだった。
すっきりと機能が収まる水まわりの配置
設計はハンズデザイン一級建築士事務所の星名岳志さん・貴子さん。玄関を入るといきなりLDKが広がり、オープンなキッチンが目に入る。ダイニングからキッチンの間を抜けて、トイレ、脱衣室、浴室が一体となった水まわり、洗面、洗濯機が一直線に並び、その先はご主人の書斎へとつながっている。トイレと脱衣室を組み合わせ、洗面は動線上の通路に、洗濯機は書斎の一角にあり、一般的な水まわりの配置とは一線を画する間取りとなっている。


書斎からキッチン、ダイニングの方向を見る。水まわりが一直線に並び、コンパクトに収まる。

ご主人の書斎はWi-Fi環境もしっかり整備。在宅勤務の割合が増え、ここで仕事をすることも多い。
「約67㎡の限りある面積でキッチンと水まわりをできるだけ中央にまとめ、ストレートな動線が生まれるように配置。トイレ、脱衣室、浴室をまとめたことで、壁側もすっきりと機能が収まっています」(星名さん)

トイレと脱衣室を兼ねてゆとりある空間に。壁はユニークなパターンのタイル。
自分たちにベストな動線や間取りを考えたリノベーション
やりくりしたスペースを活かし、ご主人と奥さまのクローゼットを分けることで、ご主人が朝早く出かける時もストレスなく身支度ができる。


寝室には奥さまのクローゼット。プリーツスクリーンで隠すこともできる。壁にはDIYでウォールステッカーを貼ってアレンジ。
「洗面が通路上にあり、起床・帰宅時の動線がスムーズに。キッチンは振り返りの動きで料理ができ、掃除も水まわりは一気にできます。最短距離で暮らしに合わせて配置されている心地よさを感じます」(奥さま)



食洗機は大型のASKO。乾燥後の食器は振り返ってすぐの引き出しにしまう。
働き方や家族の形は多様化している。Nさんご夫妻のように先入観にとらわれず、自分たちにベストな動線や間取りを考えることは、中心になって家事を担う女性の快適な暮らしにつながっていくだろう。

リビングの一面はシリカライムで仕上げたアクセント壁。オブジェ、器を飾る。

ご主人の書斎のデスク前の壁。有孔ボードを活用し、ものを飾りながら収納。

玄関土間はヴィンテージ調の黒いレンガをヘリンボーン貼り。
建物データ
〈専有面積〉67.80㎡〈バルコニー面積〉15㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1977年〈リノベーション竣工〉2017年〈設計期間〉7ヶ月〈工事期間〉3ヶ月〈設計〉ハンズデザイン一級建築士事務所

※この記事はLiVES Vol.109に掲載されたものを転載しています。
※LiVESは、オンライン書店にてご購入いただけます。amazonで【LiVES】の購入を希望される方はコチラ